「崩御」「薨去」「逝去」「薨御」「卒去」、どれも“亡くなる”を丁寧に言い換える言葉ですが、誰に使うかで語が変わります。
本記事は、辞書と公的情報に基づき、最短で正しい使い分けを身につけるための実務ガイド。
まず「一般=逝去/皇族=薨去/天皇=崩御」という核を押さえ、歴史語の位置づけまで一気に整理します。
ビジネス文書・広報・記事制作で恥をかかない表現を今日から運用しましょう。
それぞれの言葉の意味と使い方
「崩御」
「崩御(ほうぎょ)」は、最も位の高い方の死を言い表す敬語です。
日本では基本的に天皇・皇后・皇太后・太皇太后に用います。
海外でも国王や皇帝などの君主に対して使われることがあります(例:「○○国王が崩御」)。
報道や公式発表でも厳密に選ばれる語で、用法を誤ると不敬に当たるため注意が必要です。
読みは「ほうぎょ」。新聞・放送では「崩御」の語を使うかどうかの基準を各社であらかじめ定めていることが多く、天皇に限定する運用も見られます。
根本の定義としては、辞書では「天皇・皇后・皇太后・太皇太后の死を言う語」と説明され、古くは上皇・法皇にも用いられたと記されています。
「薨去・薨御」
「薨去(こうきょ)」は、皇族や三位以上の高位の貴人に対して用いる語です。
古典では公卿など上級貴族の死にも使われてきました。
「薨御(こうぎょ)」は近い意味で、親王・女院・摂政・関白・大臣などに対する表現として古典に頻出します。
現代の用字では、皇族の訃報に「薨去」を使うのが一般的で、「薨御」は文語的・古風な表現として歴史文献で見かける場面が中心です(例:「兵部卿宮薨御」)。
いずれも一般人には用いません。
「逝去」
「逝去(せいきょ)」は、「死ぬ」の尊敬語で、身内以外の人に対して丁重に言い表すときに使います。
ビジネス文書やニュース、訃報で最も出番が多く、年齢や地位を問わず広く使える点が便利です。
なお「逝去」自体が敬語なので、「ご逝去」や「逝去されました」は文法上二重敬語に当たると説明されますが、長年の慣用としてメディア等で一定程度容認されてきた経緯があります。
読み間違い(×いきょ)にも注意しましょう。
「卒去」
「卒去(そっきょ/しゅっきょ)」は、律令制下の位階に基づく古い用語で、本来は三位未満の四位・五位の臣や無位の皇族などに対して用いられました。
そこから転じて、広く身分のある人の死を指す語として辞書に立項されています。
現代の一般的なニュースや通知ではほとんど使われず、古風・有職故実の文脈や歴史叙述で見かける程度と理解しておくと実務上迷いません。
「崩御」と「薨去・薨御」の違い
天皇専用の「崩御」
最大の違いは対象の位です。
「崩御」は日本では天皇(および皇后・皇太后・太皇太后)に限定される最上位の敬語表現で、海外の王や皇帝に使う場合もあります。
過去の報道や公式文書でも厳粛に使い分けられており、誤用は大きな批判を招きやすい語と心得ましょう。
読み・書き共に定着しており、一般の社内文書や弔電でこの語を用いる場面はまずありません。
皇族・高位貴族に使う「薨去・薨御」
天皇に準ずる高貴な立場でも、天皇以外には「崩御」は原則使いません。
皇太子・親王・内親王等の皇族には「薨去」を、古典的には親王・摂政・関白・大臣などに「薨御」を当てます。
現代実務では「薨去」が主流です。たとえば中世史の史料や古典文学には「薨御」の例が残され、辞書でも典拠が示されています。
誤用を避けるためのポイント
実務では「天皇=崩御/皇族=薨去」をまず押さえ、迷ったら公式発表の用語に合わせるのが安全です。
報道各社は内規で運用を定めていることがあり、皇后の事例などで「崩御」を用いるかを厳密に扱うケースもあります。
公的情報では実例として「皇太后陛下が崩御になった」との宮内庁記述が確認できます。
社内文書・一般向け通知で「崩御」「薨去」を使うのは原則不要・不適切と覚えておくと安心です。
「逝去」と「卒去」の違い
一般的に使われる「逝去」
「逝去」は最も汎用的な丁寧表現で、身内以外の相手を敬って言う際に使います。
社外向けお知らせ、社内訃報の対外文、広報・記事など、幅広い場面で適合します。
文法上は「逝去」自体が敬語のため「逝去された」「ご逝去」は二重敬語に当たるとされますが、長年の慣用として完全な誤りとまでは扱われないことも、国立国語研究所の解説で触れられています。
読みはせいきょで、誤読・誤記に注意しましょう。
格式・有職故実の色合いが強い「卒去」
「卒去」は位階制度に根差す語で、四位・五位の臣や無位の皇族などに対して用いた古い区分です。
現代のニュース・ビジネス文書ではまず出番がなく、歴史叙述・系譜・史料引用などで維持されていると考えると混乱しません。
宗教的な専門語ではなく、むしろ身分秩序に結びついた古典語という位置付けです。
現代の実務では「逝去」を基本に、対象が皇族等なら「薨去」、天皇等なら「崩御」と切り替えるのが実用的です。
新聞・ビジネス文書での実際の用例
実務の標準は次の通りです。
身内=「死去」、身内以外=「逝去」、警察・行政発表=「死亡」、皇室関連=「崩御/薨去」。
対外的な弔意文では「ご逝去の報に接し」「謹んでお悔やみ申し上げます」の定型がよく使われます。
「ご逝去」「逝去された」は二重敬語との指摘がある一方で、慣用として受け入れられている旨の解説もあります。
社の文体基準やメディアの用字用語集に合わせてブレを抑えるのがプロの書き方です。
歴史と現代における使われ方
古典や歴史での使用例
中世の軍記物や古記録には、位階に応じた語の使い分けが豊富に見られます。
たとえば『太平記』には「薨御」の例が確認でき、親王・大臣級に対する敬語として機能していました。
辞書典拠でも「兵部卿宮薨御事」等の実例が示されます。
また「薨去」は『源平盛衰記』などに現れ、皇族・三位以上の死を表す語として定着していたことがわかります。
こうした有職故実の体系が、現代の「崩御/薨去」の基礎になっています。
現代ニュースや公式発表の事例
現代日本の公的記録でも、対象ごとの語の選択は明確です。
宮内庁のページには「皇太后陛下が崩御になったので…」と記され、皇室関係の儀礼記事で用語が厳密に使い分けられていることが読み取れます。
海外王室の訃報では「国王が崩御」と表現されることもありますが、各報道機関の基準に従い表記を調整します。
一般の企業・学校の訃報では「逝去」を使い、対象が皇族かどうかを最初に判定する、という運用が実務上のコツです。
まとめ:使い分け早見表
天皇には「崩御」
まず押さえるべき最重要ルール。
国内の用法では天皇(および皇后・皇太后・太皇太后)の死に対して「崩御」を用います。
海外の君主にも「崩御」を当てる運用があり得ますが、媒体ごとに基準が異なるため、引用や報道では公式表現に合わせるのが安全です。
社内・個人の告知で「崩御」を使う場面は通常ありません。
皇族や高位の方には「薨去」(文語では「薨御」も)
皇族には「薨去」を用いるのが現代の標準です。
古典的・文語的な表現として「薨御」もありますが、現代ニュースではまず薨去が見出し語になります。
いずれも一般人や企業関係者には使いません。
身分(位階)に応じて使い分ける語である点が特徴です。
一般のケースは「逝去」
ビジネス通知・社外お知らせ・ウェブ記事など、ほぼ万能に使える丁重表現が「逝去」。
身内については通常「死去」を使います。
表現としては「逝去しました/逝去されました」「ご逝去の報に接し…」などが一般的です。
二重敬語の指摘と慣用としての容認という両面を理解し、社内スタイルに合わせて統一するとブレません。
儀礼的・古風な文脈では「卒去」
「卒去」は位階制度に根差す古語で、現代の一般実務ではほぼ使用しません。
歴史叙述・系譜・有職故実の文脈で見かけたら「位階に応じた表現」と理解しましょう。
現在の訃報運用では、皇族=薨去/天皇=崩御/それ以外=逝去で十分対応できます。
使い分け早見表(保存版)
用語 | 読み | 対象/場面 | 現代の頻度 | 例 |
---|---|---|---|---|
崩御 | ほうぎょ | 天皇・皇后・皇太后・太皇太后、(海外)君主 | 高 | 「○○国王が崩御」 |
薨去 | こうきょ | 皇族、三位以上の高位の貴人 | 中 | 「○○親王が薨去」 |
薨御 | こうぎょ | 親王・女院・摂政・関白・大臣等(主に古典) | 低 | 「兵部卿宮薨御」 |
逝去 | せいきょ | 一般の方を丁重に言う | 非常に高い | 「○○さんが逝去」/「ご逝去の報に接し…」 |
卒去 | そっきょ/しゅっきょ | 四位・五位の臣、無位の皇族(古語) | きわめて低い | 「○○卿卒去」(歴史叙述) |
違いについてまとめ
要点は対象の身分と場面で決まります。
実務の初手は「一般=逝去」「皇族=薨去」「天皇=崩御」。
ここに社内は「死去」/公的発表は「死亡」という場面ごとの言い分けを重ねれば、ほぼ迷いません。
二重敬語は原則避けつつも、「ご逝去」のように伝統的に定着した慣用があることを知っておけば、相手への配慮と規範のバランスが取りやすくなります。
歴史用語の「薨御」「卒去」は“読めて意味が分かる”状態を目指し、現代実務では過不足なく丁寧な「逝去」を基本運用とするのが最善です。