「結局、仕事ができる人に全部集まる」「部署間でたらい回しになって止まる」「最後は管理職が夜に火消し」。
もし心当たりがあるなら、それは個人の頑張りでは解決しにくい構造の問題です。
この記事では、管理職が押し付け合いを止めるために、責任の決め方、依頼の入口の整え方、業務量の見える化、トラブル時の介入の型まで、現場で使える形に落としてまとめました。
まず押さえる!押し付け合いが起きるとチームに何が起こるか
「たらい回し」が増えると、納期と品質が同時に落ちる理由
押し付け合いの怖さは、単に雰囲気が悪くなるだけではありません。
まず、意思決定が遅れます。担当が曖昧だと、確認先が増え、相談と合意の往復が増え、最終的に着手が遅れます。
次に、品質が落ちます。誰もが「自分の責任じゃない」感覚になり、前提の確認やレビューが手薄になりやすいからです。
さらに、手戻りが増えます。たらい回しの末にようやく担当が決まった時には、期限が近く、最低限の対応になりやすい。
結果として、顧客対応の遅延、クレーム、社内の火消しが増え、余計に負荷が上がります。
管理職が見るべき指標は、残業時間だけではなく「依頼から着手までの待ち時間」「差し戻し回数」「確認者の数」です。ここが増えているなら、押し付け合いはすでに業務プロセスの問題になっています。
仕事が偏ると、退職リスクが“できる人”から上がる
押し付け合いの職場では、仕事が公平に分配されません。「頼めばやってくれる人」「穴を埋めてくれる人」に集中します。すると、その人の学習や改善の時間が消えます。目の前の対応で埋まり、ミスを防ぐための余裕もなくなる。周囲はさらに「任せた方が早い」と思い、偏りが固定されます。
偏りが続くと、健康面にも影響します。厚生労働省は過重労働による健康障害を防ぐために、時間外・休日労働の削減や健康管理体制の整備が重要だと示しています。また、長時間労働と睡眠の確保が難しくなることがメンタル不調と関係する点も指摘されています。
管理職が守るべきは「頑張れる人」ではなく、「頑張らないと回らない状態」を放置しないことです。偏りを放置した瞬間に、優秀層から順に職場の選択肢を探し始めます。
「任せる」と「丸投げ」の線引き(権限と責任のセット)
押し付け合いの中心には、任せ方の失敗があります。任せること自体は悪ではありません。問題は「権限を渡さず、責任だけ背負わせる」ことです。これが丸投げに見えます。権限委譲は、業務遂行上の権限を委ねつつ、最終責任は上司側が負うという整理が基本です。
| 観点 | 任せる | 丸投げ |
|---|---|---|
| 目的 | 育成と成果の両立 | 自分の負荷回避 |
| 権限 | 判断材料と決裁範囲を渡す | なし、または曖昧 |
| 支援 | 途中の相談ポイントを設定 | 基本放置 |
| 責任 | 最終責任は管理職が持つ | 失敗の責任を部下へ寄せる |
| 伝え方 | ゴール、期限、優先度が明確 | とりあえずやって、になりがち |
管理職の一言で空気は変わります。「困ったら早めに言っていい」「最終判断はここまで」「責任は私が持つ」をセットで言えるかが境目です。
現場が揉める典型パターン:曖昧な指示・優先度未共有
押し付け合いが起きる現場には、分かりやすい型があります。
たとえば「急ぎでお願い」「できるだけ早く」だけが飛んでくる依頼。期限も優先度も曖昧だと、受けた側は他タスクとの調整ができません。結果として、遅れた時に責任の押し付けが始まります。
次に「目的が不明」の依頼。何のための資料か、誰が読むのかが分からないと、作り直しが増えます。作り直しが増えると「最初からちゃんと聞け」と言われ、聞こうとすると「いちいち細かい」と言われる。この往復が、たらい回しと不信の温床です。
管理職は、依頼の最低限の型を決めるだけで揉め事を減らせます。目的、成果物の形、期限、優先度、確認者。この5点が入っていない依頼は、チームの時間を奪うと割り切って良いです。
管理職の盲点:善意の調整が“責任転嫁”に見える瞬間
管理職は火消しをします。だからこそ、善意でやった調整が、現場には違う形で伝わることがあります。
典型は「とりあえずAさんがやって。あとで調整するね」です。管理職の頭の中では、後で役割や負荷を直すつもり。でも現場から見ると「結局いつもAさん」になります。後で直す話が来ないと、Aさんの中では「助けたのに守ってもらえなかった」という記憶になります。
もう一つは、問題を個人の努力に寄せる瞬間です。「うまくやって」「頑張って」だけだと、役割や権限の曖昧さが温存され、次の押し付け合いが確定します。
管理職の仕事は、短期の火消しと同時に、火種が出る構造を弱めることです。今日は一時しのぎでも、翌週に必ず「決める場」を作る。この約束があるだけで、現場は救われます。
原因はたいてい構造:押し付け合いを生む設計ミスを洗い出す
役割が曖昧(担当・決裁・最終責任が分かれていない)
押し付け合いの多くは、人間関係ではなく設計のミスです。担当者はいるのに、決裁者が曖昧。決裁者はいるのに、最終責任の所在が曖昧。ここがズレると、仕事は自然に漂流します。
現場で起きるのは「Aさんが作ったけど、B部の承認が必要。でもB部は関与してないと言う」みたいな状態です。誰も悪人じゃないのに、決まらない。だから最後は声の大きい人、関係が強い人、断れない人に寄っていきます。
管理職が最初にやるべき棚卸しは、仕事を「作業」「承認」「最終判断」に分けることです。全部を同じ人に集める必要はありません。ただし、最終判断は必ず一人に寄せる。ここが分かれると、押し付け合いが永久機関になります。
境界が曖昧(部署間・職種間の「ここから先は誰?」)
部署間の押し付け合いは、境界が曖昧なほど増えます。たとえば「問い合わせ対応」は営業なのか、カスタマーサポートなのか、開発なのか。曖昧だと、最初に受けた部署が「うちじゃない」と返し、次がまた返し、最後に顧客だけが待たされます。
境界問題の厄介なところは、正しさの議論になりやすい点です。「本来はそっちの担当」「前からそうだった」。ここで揉めると、現場は疲れて沈黙し、押し付け合いは裏で続きます。
管理職が解くべきは正しさではなく運用です。窓口を決め、一次受付が情報を整え、二次対応へ渡す。責任の線を引き直すより、まず流れを作る。その上で、月一回でも境界の不具合を回収してルールを更新する。これだけで「たらい回し」は現実的に減ります。
評価が歪む(協力より自己防衛が得になる仕組み)
押し付け合いが激しい職場ほど、評価のメッセージが強いです。「自分の数字」「自分の成果」「担当範囲の達成」。もちろん成果は大事ですが、協力が評価されないと、人は合理的に動きます。つまり守りに入ります。
結果として、「他部署の依頼は受けない」「曖昧な案件は避ける」「失敗しそうなら最初から断る」が正解になります。これは人間性の問題ではなく、制度と空気の最適解です。
管理職ができる手は大きく二つです。ひとつは、協力行動を言語化して評価に載せること。もうひとつは、責任が曖昧な仕事を引き受けた人を損させないことです。たとえば、炎上案件を拾った人に対して、翌月の重要タスクを軽くする、締切を調整する、表で感謝を示す。小さくても、協力が報われる合図があると、押し付け合いは弱まります。
リソース不足(人手・スキル・時間の慢性的な枯渇)
構造の中でも、一番分かりやすく、一番放置されやすいのがリソース不足です。人が足りない、スキルが偏っている、繁忙期だけ火が付く。この状態で役割分担だけを厳密にしても、現場は回りません。
ここで押し付け合いが起きる理由は単純です。全員がギリギリだと、追加依頼は「自分の死」に直結します。だから拒否反応が強くなる。結果、押し付け合いが増え、摩擦でさらに時間を失い、ますますギリギリになる。
対策は、短期と中期に分けます。短期は「やらないこと」を決める。中期は、属人化しているスキルを計画的に移す。忙しい時ほど育成が止まりがちですが、属人化が残るほど来月も再来月も火が付くので、結局コストが高くつきます。
調整不在(依頼の入口が散らばり、交通整理が起きない)
同じ依頼が、チャット、口頭、メール、会議で別々に飛んでくる職場は、押し付け合いの温床です。入口が散らばると、管理職も全体像を掴めません。全体像が掴めないと、誰が何で詰まっているか見えず、最後に爆発します。
調整役がいない状態では、現場が自主的に交通整理を始めます。しかし現場の交通整理は、責任と権限が一致しないことが多いので、揉めます。「誰が決めたの」「勝手に決めるな」という話になり、押し付け合いに戻ります。
最初の一手はシンプルです。依頼の入口を一つに寄せる。完全統一が無理なら、せめて「最終的にはここに集まる」を決める。管理職がそこを見て、優先度と担当を切る。これだけで、現場の不要な衝突はかなり減ります。
仕組みで終わらせる:責任と役割を“見える形”に固定する
RACIで「誰がやる?」を即決にする(運用の注意点つき)
押し付け合いが起きる職場では、「担当はいるけど決める人がいない」「相談先が多すぎて止まる」がセットで起きます。ここに効くのがRACIです。
RACIは、業務やタスクごとに、
・実行する人(R)
・最終的に責任を持つ人(A)
・相談される人(C)
・共有される人(I)
を整理して役割を明確にする枠組みです。
導入は大げさにやらなくてOKです。まずは揉めやすい業務だけで始めます。
例として「顧客クレーム一次対応」「原因調査」「対外文面作成」「再発防止の承認」など、境界が曖昧で火が付きやすいところを選びます。
次に、タスク名を細かくしすぎず、10〜20行くらいの表にします。
ここでの注意は、RACIを「正しさの証明」に使わないことです。目的は責任追及ではなく、迷い時間の削減です。運用のルールはシンプルに、月1回の見直しを入れて、実態とズレたら直す。それだけで、たらい回しの発生率が下がります。
「責任者は1人」ルールで、曖昧さを消す(兼務は例外扱い)
RACIで一番効くのは、Aを1人にする運用です。Aが複数だと「全員の承認が必要」になり、結局だれも決めない状態になります。実務では「最終的に腹をくくる人」を1人に固定すると、意思決定が速くなります。RACIの実務ガイドでも「各タスクにAは1人」が推奨されています。
ただし、現場では「Aを1人にできない」事情もあります。たとえば、法務確認と情報セキュリティ確認が必須の文書など。ここは例外として扱い、例外の条件を文章で決めておくのがコツです。例外を無制限に増やすと元に戻るので、「例外は最大3種類まで」「例外は更新時に必ず棚卸し」といった上限をつけます。
そして、Aを1人にしたら、その人に必要な材料と権限もセットで渡します。判断材料が揃わないのに決裁だけ求められると、Aは保身に走り、Cが増え、押し付け合いが再発します。Aを決めることは、管理職が腹を決めることでもあります。
依頼の入口を一本化:窓口・テンプレ・エスカレーション
押し付け合いは、依頼が散らばるほど増えます。口頭で言われた人、チャットで振られた人、会議で宿題になった人が、それぞれ別の認識で動き始めるからです。まずは入口を寄せます。理想は「依頼は必ずチケットかフォーム」。難しいなら「依頼は専用スレッドに集約」でもいいです。ポイントは、管理職がそこを見に行ける形にすることです。
テンプレは5点で十分です。目的、成果物、期限、優先度、確認者。これが埋まらない依頼は、受ける側も判断できません。埋まっていない依頼は「確認してから着手する」をルールにして、現場が自衛できる状態にします。
エスカレーションは、揉める前に発動できる設計にします。「担当が決まらない」「期限が衝突する」「部署間の境界」この3つは、現場同士で押し合うほど泥沼化するので、一定時間(例:24時間)決まらなければ管理職が交通整理する、と決めておくのが現実的です。これだけで、摩擦に消える時間が減ります。
文章化して残す:担当表/決裁フロー/SOP(簡易でOK)
押し付け合いを止めたいなら、口約束を減らすのが近道です。口約束は、忙しいほど忘れられ、都合よく解釈されます。まずは「担当表」と「決裁フロー」を1枚で作ります。立派な文書でなくていいです。誰が窓口か、最終判断は誰か、相談先は誰か。それが見えるだけで、たらい回しは減ります。
次に、SOP(手順書)は全部を作らず、事故が起きやすい部分だけを先に書きます。たとえば「顧客に謝罪が必要な場合の承認ルート」「外部に提出する資料の最終チェック項目」などです。ここを決めると、現場は迷いが減り、管理職への確認も減ります。
さらに、更新の責任者も決めます。文章は作って終わりだと腐ります。RACIと同じで、月1回か四半期に一度、現場でズレを回収する場を作るのがコツです。文章化は縛るためではなく、判断の基準を揃えるための投資です。
“押し付け防止”の会議設計:週次10分で優先度と負荷を揃える
会議が長い職場ほど、押し付け合いが減るわけではありません。むしろ、決まらない会議は「宿題の押し付け装置」になりがちです。おすすめは週次10分の短い運用です。やることは3つだけ。
1つ目は、今週の最重要を3件に絞ること。2つ目は、各メンバーの負荷を一言で確認すること(余裕、普通、危険の3段階でも十分)。3つ目は、依頼の衝突と担当未決をその場で決め切ることです。
この会議の狙いは、現場が断る勇気を持つことではなく、管理職が「やらない決定」を引き受けることです。優先度が揃うと、現場は判断に迷いません。迷いが減れば、押し付け合いの発生源が減ります。短くても毎週やると、問題が小さいうちに見えます。炎上してからの火消しより、はるかに安い運用です。
マネジメントの腕の見せ所:業務量を管理し、偏りを直す
ワークロードを把握する:タスク・工数・締切の棚卸し
押し付け合いの対策で一番効くのは、「誰が忙しいか」ではなく「何がどれだけあるか」を見える化することです。まずは全タスクを棚卸しします。粒度は粗くてOKです。運用保守、問い合わせ、資料作成、会議、育成、改善活動など、カテゴリで分けます。次に、各タスクの締切と所要時間をざっくり置きます。大事なのは精度より、会話の共通土台です。
そして、労働時間の状況は、感覚ではなく記録で見ます。長時間労働者への医師面接指導制度の資料でも、労働時間の状況を適正に把握するために、始業・終業時刻の確認や客観的な記録(タイムカードやログ等)を用いる必要がある旨が示されています。
管理職が「見える化」に手を抜くと、現場は声の大きさで仕事が決まり、押し付け合いに戻ります。見える化は監視ではなく、偏り検知のための計器です。
優先順位の決め方:全部やる前提をやめる(やらない仕事を決める)
リソースが足りない時に一番危ないのは、「全部大事」と言ってしまうことです。全部大事は、現場にとっては全部断れないと同じ意味です。結果、押し付け合いが激化します。
管理職がやるべきは、優先順位の決定と、やらない仕事の決定です。コツは、タスクを「顧客影響」「法令・契約」「売上影響」「社内期限」「改善投資」に分けて、上位から処理すること。
そして、下位のものは期限を伸ばすか、やめる。やめると言うと反発が出るので、「今月は凍結」「今期は実施しない」など、期間で区切ると受け入れられやすいです。
また、時間外労働の上限規制は法的な枠として存在します。時間外労働は原則として月45時間・年360時間が上限で、特別条項でも上限が定められています。
「頑張れば何とかなる」を前提にしない優先順位は、リスク管理そのものです。
配分のルール:難易度・成長機会・属人性で割り振る
配分が毎回その場のノリで決まると、押し付け合いになります。だから、配分のルールを作ります。おすすめの軸は3つです。
1つ目は難易度。難しい仕事は一部に寄せない。2つ目は成長機会。若手に挑戦を渡す時は、期限と支援をセットにする。3つ目は属人性。特定の人しかできない仕事は、将来のリスクなので、計画的に分解して移す。
このとき、ルールを現場に説明できる形にするのが大事です。「あなたが得意だから」だけだと、得意な人が損をします。「この仕事は属人性が高いから、今月は二人で分担して手順化する」「次回からは交代できるようにする」と言えれば、同じ配分でも納得感が変わります。
配分は平等ではなく、公平を目指します。公平とは、負荷と成長とリスクを合わせて最適化することです。ここに管理職の価値があります。
「できる人」に寄せない:育成計画とセットで段階移管
できる人に寄せると短期的には楽です。でも長期的には確実に詰みます。なぜなら、できる人が休んだ瞬間に回らなくなるからです。押し付け合いが止まらない職場は、だいたい「その人がいないと困る人」が多すぎます。
段階移管のコツは、仕事を丸ごと渡さないことです。まずは一部の工程だけ渡します。たとえば「作成は若手、最終確認はベテラン」「一次対応は当番制、難しい判断は管理職」など、分解して移します。次に、失敗していい範囲を決めます。全て完璧を求めると育成は止まり、結局ベテランに戻ります。
ここで重要なのは、管理職が失敗の責任を引き受ける姿勢です。任せたのに失敗したら部下を責める、となると、部下は二度と手を上げません。最終責任を持つ立場の行動が、押し付け合いの文化を作ります。
可視化ツールの使いどころ:監視ではなく“偏り検知”に寄せる
タスク管理ツールやスプレッドシートを入れても、押し付け合いが止まらないケースがあります。理由は、使い方が「管理のための管理」になるからです。現場は入力が増えて疲れ、結局口頭が戻り、入口が散らばります。
ツールの目的は、偏り検知と意思決定の材料に絞るのが良いです。たとえば、誰が何件抱えているか、期限が今週に集中していないか、未決の依頼が何件あるか。これが見えれば、管理職が配分と優先度を調整できます。
また、長時間労働の健康リスクへの対策としては、時間外・休日労働の削減や健康管理体制の整備が重要だとされています。
ツールの数字は、詰める材料ではなく、守るためのアラームにします。「増えているから叱る」ではなく「増えているから減らす」。この運用ができると、現場は入力に協力しやすくなります。管理職の一言で、ツールは武器にも罠にもなります。
トラブル対応:丸投げ・圧力・不公平が出た時の止め方
事実を揃える:依頼経路・指示内容・期限・成果物を確認
押し付け合いが表面化した瞬間、管理職が最初にやるべきは「誰が悪いか探し」ではなく「事実の棚卸し」です。ここが曖昧なまま話し合うと、言った言わないの勝負になり、関係だけが壊れます。
集める事実は、たった5点で足ります。
①依頼が来た経路(口頭、チャット、メール、会議)
②依頼者が求めた成果物(何を、どこまで)
③期限と優先度(誰が決めたかも)
④関係者(承認者、相談先、共有先)
⑤現状(どこで止まっているか)
この5点が揃うと、「何が未決か」が見えます。
特に効くのが、成果物の「合格ライン」を文章にすることです。たとえば資料なら、想定読者、目的、必要な粒度、ページ数、レビュー回数。ここを決めると、無限修正が止まり、押し付けの温床が減ります。
最後に、事実は必ず一枚にまとめます。表でも箇条書きでもOKです。情報が一箇所に集まると、管理職が交通整理できるようになり、現場が押し合う時間が減ります。押し付け合いは感情の問題に見えますが、最初の一手は情報整理です。
介入の型:当事者だけで揉ませず、管理職が交通整理する
当事者同士に任せるほど、押し付け合いは長引きます。理由は簡単で、当事者は「自分の正しさ」と「自分の負荷」を守る立場だからです。管理職は、正しさの裁判官ではなく、仕事が前に進むように道を作る人です。
介入の型は3ステップにすると崩れません。
ステップ1は分離。まず個別に話を聞き、各人の不満ではなく、困っている事実だけを拾います。ステップ2は決定。RACIの発想で「実行する人」と「最終責任者」をその場で決めます。ここで最終責任者が不在だと、また漂流します。ステップ3は合意。期限、成果物、相談ポイントを決め、議事メモを残します。
ポイントは「決める場」を短くすることです。長く話すほど、論点が増えて揉めます。10分で決め、30分で初動を作り、翌日に再確認する。このリズムが、たらい回しを止めます。
もう一つ大事なのが、当事者に「断る権利」を渡すことです。管理職が優先度を引き受ければ、現場は断りやすくなります。断れないから押し付け合いになる。ここを逆にします。
NG対応:放置・どちらかの肩を持つ・感情的な叱責
押し付け合いが起きた時、管理職がやりがちなNGが3つあります。
1つ目は放置です。「現場で話し合って」で終わると、現場は責任の押し合いを続けるしかありません。結果として、強い人の意見が通り、弱い人に仕事が集まります。
2つ目は、片方の肩を持つことです。たとえば「いつも頑張ってるから、今回もお願い」と言うと、短期的には助かります。でも長期的には「頑張る人が損をする」ルールを固定します。これは組織の信用を削ります。
3つ目は、感情的な叱責です。「なんでできないの」「そんなの常識だろ」と言った瞬間、報告が遅れます。遅れれば遅れるほど炎上し、押し付け合いの材料が増えます。
正しい代替はシンプルです。放置の代わりに「いつまでに誰が決めるか」を決める。肩を持つ代わりに「ルールと基準」で配分する。叱責の代わりに「事実と次の一手」に集中する。管理職の言葉は、仕組みより早く文化になります。だからこそ、まずNGをやめることが最短ルートです。
ハラスメント境界の理解:相談窓口・証拠・社内手続き
押し付け合いがエスカレートすると、「指示」ではなく「圧力」になることがあります。ここで管理職が押さえるべきなのが、職場のパワーハラスメントの考え方です。
厚生労働省は、職場のパワハラを「優越的な関係を背景とした言動」「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」「就業環境が害される」という3要素で整理しています。 ハラスメント防止ポータル+1
【参考】ハラスメントの定義|ハラスメント基本情報|あかるい職場応援団 -職場のハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト-
また、2022年4月からは、パワハラ防止のための取り組みが全ての事業主に義務化された旨が示されています。 政府オンライン
【参考】NOパワハラ なくそう、職場のパワーハラスメント | 政府広報オンライン
つまり「うちは小さい会社だから」は通りません。管理職は、現場の火消しだけでなく、相談しやすい導線と再発防止を作る責任があります。
実務で大切なのは、境界を決めつけないことです。まず事実を残します。依頼内容、期限、やり取り、誰が何を言ったか。次に社内の相談窓口や人事に繋ぎます。外部の相談先としては、厚生労働省の総合労働相談コーナーが、いじめ・嫌がらせやパワハラを含む労働問題の相談を受け付けています。
管理職にできる最善は、問題が小さいうちに「相談していい空気」を作ることです。相談が遅れるほど、事実が散り、押し付け合いは対立に変わります。
再発防止:ルール更新→周知→1か月後レビューで定着させる
押し付け合いは、1回止めても放っておくと戻ります。再発防止は「仕組みを作る」より「回し続ける」方が重要です。おすすめは、ルール更新、周知、レビューの3点セットです。
まずルール更新。起きたトラブルを、個人の反省にせず、運用の欠陥に落とし込みます。たとえば「依頼テンプレに優先度がないから揉めた」「最終責任者が複数で止まった」「窓口が分散して把握できなかった」。原因が一文で言える形にすると、改善が続きます。
次に周知。新ルールは、長文メールより「1枚の図」と「例」で伝える方が定着します。RACI表の一部でも、担当表でもOKです。最後にレビュー。1か月後に必ず見直しの場を作ります。実態に合わないルールは、現場が静かに破ります。破られたら、ルールの負けです。だから、現場の声を取り込み、軽く直していきます。
このサイクルが回ると、押し付け合いは「揉め事」ではなく「改善テーマ」になります。管理職の仕事は、問題を消すことではなく、同じ問題が起きにくい形に変えることです。
会社の仕事の押し付け合い解決法まとめ
会社の仕事の押し付け合いは、性格の問題に見えて、実は「責任と役割の曖昧さ」「入口の分散」「優先度の未決」「リソース不足」が重なって起きることが多いです。
管理職が効かせるべきポイントは、次の5つです。
- 最終責任者を1人に固定し、迷い時間を減らす(RACIの考え方が効く)
- 依頼の入口を寄せ、目的・成果物・期限・優先度・確認者を最低限そろえる
- ワークロードを見える化し、全部やる前提をやめる。時間外労働には上限の枠がある
- トラブルは当事者だけで揉ませず、管理職が交通整理し、決め切る
- 圧力や不公平が強い場合は、パワハラの定義と相談導線を押さえ、早めに守りに入る
押し付け合いを止める一番の近道は、「誰かが我慢する」ではなく「決め方と流れを固定する」ことです。小さく始めて、月1回見直す。これが一番続きます。
【参考】
・過重労働による健康障害を防ぐために|厚生労働省
・過重労働とメンタルヘルス-特に長時間労働とメンタルヘルス-|島悟(京都文教大学臨床心理学部・神田東クリニック)
・総合労働相談コーナーのご案内|厚生労働省
