「元明天皇（げんめいてんのう）って何をした人？」
教科書には平城京遷都や古事記完成といった功績が簡単に載っているだけで、実際どんな人物だったのか、深く知る機会は少ないかもしれません。
しかし彼女は、飛鳥時代から奈良時代への橋渡し役であり、日本の政治・経済・文化を大きく前進させた立役者です。
この記事では、元明天皇の生涯、政治的改革、文化への影響、そして現代にまで響く意義を、情景が浮かぶようにわかりやすく解説します。
読み終える頃には、「元明天皇ってすごい！」と感じるはずです。
元明天皇の基本プロフィール
生い立ちと家系
元明天皇（げんめいてんのう）は、661年に誕生しました。
父は天武天皇、母は持統天皇の妹である元明天皇の母・阿閉皇女（あへのひめみこ）です。
つまり、皇族の中でも非常に由緒正しい血筋を持っていました。
彼女の幼名や少女時代の詳細な記録はあまり残っていませんが、宮中で教育を受け、当時の上流貴族の子女として漢詩や和歌、礼儀作法を学んで育ったと考えられています。
飛鳥時代はまだ中国・唐の影響が強く、宮廷文化も華やかで、衣装や建築、儀式の多くが大陸風でした。
元明天皇もそうした環境の中で、幼少期から政治や文化に関わる感覚を自然に身につけていきます。
また、彼女は草壁皇子（天武天皇の皇子）に嫁ぎ、二人の子をもうけます。
そのうちの一人が後の元正天皇で、もう一人が文武天皇です。
特に文武天皇は、若くして即位しますが病弱で、治世が短かったため、母である元明天皇が後を継ぐことになります。
このように、元明天皇の人生は、幼少期から「皇室の中心」にありました。
血筋、結婚、子ども、どれをとっても天皇家の歴史の中核を担う存在であったことがわかります。
即位の背景
文武天皇が急逝したのは707年のことでした。
彼はまだ20代前半という若さでした。
その突然の死により、政治の空白を避けるために、母である元明天皇が即位することになったのです。
当時の日本では、女性天皇は珍しくはありませんでしたが、あくまで「中継ぎ」としての役割が多い存在でした。
元明天皇の場合も、次代の皇位継承者が成長するまでの臨時的な存在としての即位でした。
しかし、彼女の治世は「つなぎ役」どころではありませんでした。
後に語られる大改革の舞台準備を整え、日本の都を飛鳥から奈良の平城京へ移すという大事業を決断します。
この背景には、中国・唐の長安をモデルとした壮大な都を築くことで、国の威信を高める狙いがありました。
即位当時の日本は、律令制度が整いつつある時期であり、国の形が固まり始めた重要な時期でした。
そんな中で女性が最高権力を握ることは、現代でいうなら「社長交代の危機」に母親が就任するようなもの。
彼女はその役目を見事に果たす覚悟を決めたのです。
在位期間と時代背景
元明天皇の在位は707年から715年まで、およそ8年間でした。
この期間、日本は飛鳥時代から奈良時代への大きな転換期にありました。
飛鳥時代は、政治の中心地がしばしば遷都によって移動する不安定な時代でした。
しかし、元明天皇は平城京に遷都することで、国家の基盤を安定させる方向に舵を切ります。
これは当時の唐の都・長安を参考にした計画で、国際的な存在感を示す意味も込められていました。
また、この時代は律令制度が本格的に運用され始めた時期でした。
戸籍や計帳による人口・土地の把握、租庸調（そようちょう）という税制度の整備が進められました。
これにより、中央集権的な政治体制が確立しつつありました。
国際関係では、遣唐使の派遣によって中国との文化交流が続き、仏教や学問、制度面での影響を受けます。
一方で、国内では疫病や飢饉なども発生し、安定への道は決して平坦ではありませんでした。
元明天皇の時代は、古代日本が「国の形」を確立するための土台作りの時期であり、彼女はその舵取り役を担ったのです。
もし彼女が遷都を決断しなければ、奈良時代の文化的繁栄はもっと遅れていたかもしれません。
家族構成と人間関係
元明天皇の家族構成は、政治的にも文化的にも非常に重要な意味を持っていました。
夫は草壁皇子で、彼は天武天皇の皇子であり、持統天皇の息子でもあります。
つまり、元明天皇と草壁皇子の結婚は、皇室内部の血統を安定させるための重要な政略結婚でした。
二人の間には二人の子どもがいました。
長女の氷高内親王（後の元正天皇）、そして長男の首皇子（おびとのみこ、後の文武天皇）です。
特に文武天皇は若くして即位しますが病弱で、彼の早すぎる死が元明天皇即位のきっかけとなります。
また、元明天皇は母・阿閉皇女を通じて持統天皇と姉妹関係にあり、政治的にも強力な後ろ盾を持っていました。
この血縁関係と人脈は、彼女が即位後に安定した政治を行う上で大きな支えとなります。
宮中では、藤原不比等などの有力貴族とも協力関係を築きました。
特に藤原氏との関係は、律令政治の整備や文化事業の推進において欠かせないものでした。
元明天皇の政治力は、単なる家族の影響だけでなく、人脈を上手く活かす知恵にも支えられていたのです。
名前の由来と意味
「元明天皇」という名前は、諡号（しごう）と呼ばれるもので、死後に贈られた尊称です。
諡号は、その人物の生涯や人柄を表す意味が込められることが多く、「元明」は「はじまりの明るさ」「根本の光明」という意味を持っています。
この名前は、元明天皇が国の新たな時代を切り開き、文化的にも政治的にも明るい道を示したことを象徴しています。
特に平城京遷都という歴史的事業や、古事記の編纂を完成させた功績は、この「明」という文字にふさわしいものです。
生前、彼女は「阿閉皇女（あへのひめみこ）」や「安宿媛（あすかべひめ）」などと呼ばれていました。
即位後は「天皇」という称号を持つことで、政治的権威と神聖さを兼ね備えた存在となります。
日本の天皇号は、飛鳥時代後期から中国風の二字諡号が使われるようになりました。
その中で「元明」という名は、女性としての柔らかさと、国家を導く指導者としての光を併せ持つ響きを感じさせます。
名前に込められた意味を知ると、元明天皇が単なる「つなぎの天皇」ではなく、新時代の扉を開いた人物であることがより鮮明に見えてきます。
元明天皇の政治と改革
平城京遷都の決断
元明天皇の最大の功績の一つが、710年の平城京遷都です。
それまでの都は、天皇の代替わりや政治的事情によって頻繁に移転していました。
しかし、元明天皇はこれを終わらせ、恒久的な首都を築く決断を下します。
平城京は、中国・唐の長安をモデルにした碁盤目状の都市計画が特徴です。
広大な中央大路が南北を貫き、政治の中心である大極殿や朝堂院が北側に配置されました。
これは、国家権力を象徴的に示すデザインでもありました。
遷都は単なる引っ越しではなく、物流や経済、宗教、文化の拠点を一新する国家事業でした。
地方からの物資を都に集めるための道路整備や、役人の配置換え、寺院の移転など、多くの課題を伴います。
それらをわずか数年で形にしたのは、当時の政治力と人材動員能力の高さを物語っています。
元明天皇の決断は、奈良時代の文化的黄金期の基礎を築きました。
もし彼女が平城京遷都を行わなければ、日本の政治や文化はもっと分散的なまま発展していた可能性があります。
歴史の流れを一気に変える、大胆な一手だったのです。
中央集権体制の強化
元明天皇は、律令制度を基盤とする中央集権体制をさらに強化しました。
律令制は天武・持統天皇の時代に整備が進められていましたが、実際に運用を安定させたのは彼女の治世です。
中央集権とは、政治の権力と意思決定を都の中央政府に集中させる仕組みです。
当時の日本は、地方豪族の力がまだ強く、中央の命令が隅々まで届くには時間がかかっていました。
そこで、国司や郡司を派遣し、地方の行政と税収を管理させる体制を整えました。
また、都の役所である八省（中務省、大蔵省、治部省など）の機能を強化し、官僚制度を充実させました。
これにより、法律の施行や税の徴収がより効率的に行われるようになります。
中央集権の強化は、地方の独立性を抑える一方で、国家の安定を確保する効果がありました。
現代で例えるなら、バラバラに動いていた支店を、本社の統一ルールで動かすようなものです。
元明天皇は、その本社機能を飛躍的に高めた立役者だったといえます。
税制や戸籍制度の整備
元明天皇の時代、税制や戸籍制度が本格的に整えられました。
律令制の下では、6年ごとに戸籍を作成し、人口や土地の情報を記録します。
これに基づいて、租庸調と呼ばれる税を徴収しました。
「租」は田んぼからの収穫物（主に米）を納める税。
「庸」は労働の代わりに布などを納める税。
「調」は地方の特産物を納める税です。
これらをきちんと集めるには、正確な戸籍が不可欠でした。
元明天皇は戸籍管理の精度を高めるため、地方役人に定期的な報告を義務付けました。
また、課税の公平性を保つために、人口や土地の増減が正しく反映されるよう制度を監督しました。
この仕組みによって、国は安定した財源を確保でき、平城京の維持や寺院建設、道路整備といった事業が可能になりました。
現代の住民基本台帳や所得税制度に通じる考え方が、この時期にすでに根付いていたのです。
貴族と庶民の生活改善
元明天皇の政治は、貴族だけでなく庶民の生活にも目を向けたものでした。
平城京建設に伴い、周辺地域には商業や手工業が発展し、多くの人々が職を得ました。
また、物流の発達により、各地の特産物が都に集まり、食文化も豊かになっていきます。
一方で、庶民の生活を守るための施策も行われました。
飢饉や疫病の際には、米の備蓄を放出して民衆を救済し、税の免除を行うこともありました。
また、貴族階級にも節度ある生活を求め、浪費や贅沢を戒める詔を出しています。
このような姿勢は、単なる支配者というより「国全体の母親」のような存在感を与えました。
元明天皇が女性であったことも、この温かみのある政治姿勢に影響していたのかもしれません。
文化振興の方針
元明天皇は文化事業にも積極的でした。
特に古事記の完成は彼女の治世の大きな成果です。
古事記は日本最古の歴史書であり、神話から推古天皇までの出来事が記されています。
編纂の背景には、口承で伝わっていた物語や歴史を整理し、国家の正統性を明確にする意図がありました。
これは、国のアイデンティティを固めるための重要な文化的作業でした。
また、平城京には多くの寺院が建立され、仏教文化の中心地としても発展します。
仏教は国家の安定や繁栄を祈る宗教として重視され、寺院は学問や医療の場としても機能しました。
元明天皇は文化を単なる飾りではなく、国家運営の基盤として位置づけた稀有な存在でした。
文化・学問への影響
古事記の完成と編纂の意義
元明天皇の治世で最も文化的に重要なのが、古事記の完成です。
古事記は712年、太安万侶（おおのやすまろ）が編纂を終え、元明天皇に献上しました。
古事記は、上巻・中巻・下巻の三巻構成で、日本の神話から推古天皇の時代までを記録しています。
神話部分では、天照大神や須佐之男命などの物語が描かれ、政治的には天皇家の起源を正当化する役割を持ちました。
当時、日本には中国から律令制度や仏教文化が入ってきていましたが、その一方で「日本らしさ」を記録し、後世に残す必要がありました。
古事記の編纂は、そのための文化的防波堤の役割を果たします。
また、この事業は単なる記録ではなく、国家的プロパガンダの意味合いもありました。
「我が国は神々の時代から続く特別な国である」という思想を広めることで、天皇中心の国家体制を支えたのです。
もし古事記がこの時期にまとめられていなければ、多くの神話や伝承は後世に残らなかったでしょう。
元明天皇の文化政策が、日本の精神的な土台を守ったと言えます。
漢字文化の普及
元明天皇の時代、漢字文化は大きく広まりました。
それまでも公文書や外交文書には漢字が使われていましたが、平城京遷都を機に、行政機構全体で漢字使用が標準化されます。
漢字は単なる文字ではなく、律令制度や外交、法律、歴史記録を成立させるための必須ツールでした。
役人は皆、漢字を読み書きできなければ仕事が務まりません。
そのため、地方役人にも漢字教育が広まり、地方行政のレベル向上につながります。
また、仏教経典も漢字で書かれており、僧侶や学者たちは経典を通じて中国の思想や学問を学びました。
漢字文化の浸透は、単に文章が書ける人を増やすだけでなく、思想や価値観の共有基盤を広げたのです。
この流れは、やがて平安時代に仮名文字が生まれる土台となります。
元明天皇の治世は、日本語の書記文化史においても重要な転換期でした。
奈良時代の芸術発展
元明天皇の文化政策は、芸術にも大きな影響を与えました。
平城京は新しい都として、多くの寺院、宮殿、役所が建設され、その装飾や建築様式は中国・唐の影響を色濃く受けています。
大極殿や朝堂院のような官庁建築は、木造でありながら壮大なスケールを誇り、朱色の柱と白壁が青空に映える光景は、訪れる人々に強い印象を与えました。
また、寺院建築には複雑な瓦葺き屋根や精緻な彫刻が施され、仏像も黄金や漆で彩られました。
工芸品では、金銀細工や漆器、織物が発達し、貴族の生活を華やかに彩ります。
これらの美術品は、国内だけでなく、外交の贈り物としても活用されました。
元明天皇の時代は、奈良時代の芸術的繁栄の幕開けであり、後の正倉院宝物にもつながる文化財が多く生まれた時期でした。
学問と教育制度の発展
元明天皇は学問の振興に熱心で、特に官僚育成に力を入れました。
律令制度を運用するには、法律や税制、外交文書を正しく扱える人材が不可欠だったからです。
そのため、大学寮と呼ばれる役人養成機関の整備が進められました。
大学寮では漢文学、法律、算術、音楽、礼儀作法まで幅広く学べました。
優秀な学生は将来、国司や高官として地方や中央で重要な役職に就くことになります。
授業は、朝早くに鐘の音とともに始まります。
師は唐からの知識を取り入れ、巻物を広げて生徒に漢詩を朗読させます。
冬の寒い朝でも、学生たちは息を白くしながら筆を走らせたと伝えられています。
僧侶教育も重視されました。
寺院内では仏教経典の理解や儀式の作法が体系的に教えられ、地方に派遣された僧侶は学問の伝道師としても活躍しました。
このように学問は単なる知識の習得ではなく、国家運営の要でした。
知識を持つ人材が増えれば、中央集権体制は強化され、地方の統治も安定します。
元明天皇の時代は、「学びによって国を治める」という理念が形を成した時期だったのです。
仏教寺院の保護と建設
元明天皇は仏教に深く帰依し、寺院の保護と建設を積極的に進めました。
平城京遷都後、都の内外には数多くの寺院が建てられ、それは単なる宗教施設ではなく、文化と学問の拠点でもありました。
寺院では経典の写本作業が行われ、僧侶たちは昼夜問わず筆を動かしていました。
その音は、紙をめくる微かな音と筆の擦れる音が混ざり、静謐な空気を作り出していたといいます。
こうして写経は信仰心を高めるだけでなく、漢字文化の普及にも寄与しました。
また、寺院は医療や福祉の場でもありました。
薬草を育て、病人に施し、貧しい人々に食事を与える活動も行われています。
平城京の寺院周辺は、祈りと人助けの両方が行き交う、まさに「心の拠り所」でした。
元明天皇は、国家安泰や五穀豊穣を祈る大規模な法会を催し、自らも参列しました。
この姿は民衆に安心感を与え、天皇への信頼を深める効果がありました。
こうした政策は後の聖武天皇による東大寺大仏建立の基盤を作ります。
元明天皇は、仏教を通じて人々の心を束ね、国を安定させる術を心得ていた稀有な統治者だったのです。
元明天皇と平城京
平城京建設の経緯
平城京は710年、元明天皇の詔によって建設が始まりました。
それまでの都は飛鳥地方を中心に、天皇の代替わりや政治的事情に応じて頻繁に移動していました。
しかし、この度の遷都では「恒久的な首都」を目指し、計画的に整備された都市が建てられたのです。
建設の背景には、中国・唐の長安をモデルとする意図がありました。
長安は国際都市として繁栄し、その整然とした都市計画は当時の世界でも最先端でした。
元明天皇はこの制度と美しさを日本に取り入れることで、国の威信を高めようとしました。
都の場所は、奈良盆地の北部が選ばれました。
四方を山に囲まれ、中央には大和川水系の川が流れ、物流や農業にも適した土地でした。
さらに古墳時代から人の営みが続く歴史ある地でもあります。
建設は膨大な労力を必要としました。
各地から職人や労働者が集められ、道路や宮殿、役所、寺院の建設が進められました。
この国家事業は、単なる政治拠点づくりを超え、日本の新しい時代の象徴となったのです。
都の設計と特徴
平城京は碁盤目状に区画された、計画都市でした。
中央を南北に走る朱雀大路が都を二分し、北端には天皇の住まいと政治の中心である大極殿や朝堂院が配置されました。
東西には市が設けられ、東市と西市では全国各地からの物資や外国からの珍しい品が取引されました。
商人たちの呼び声や物の香りが混ざり合う市場は、常に活気にあふれていたと記録されています。
都には多くの寺院が建ち、宗教儀式や学問の場としても機能しました。
街路沿いには貴族の邸宅や役所が並び、さらにその外側には庶民の住居が広がります。
この構造は身分制度を反映しており、政治・宗教・経済の中心は明確に区別されていました。
建築には朱塗りの柱、白壁、瓦葺き屋根が用いられ、遠くからでもその荘厳さがわかりました。
平城京は、権力の象徴であると同時に、日本の文化的洗練の象徴でもあったのです。
平城京の政治的意義
平城京は単なる居住地ではなく、律令制度を実行するための中枢機能を持った政治都市でした。
八省（中務省、大蔵省、刑部省など）と呼ばれる官庁が集まり、全国からの報告や税が集約されました。
政治的には、地方と中央を結ぶ仕組みを強化する拠点でした。
地方の国司は定期的に都へ赴き、元明天皇や中央官僚に報告を行います。
この往来によって地方の実情が把握され、政策に反映されました。
外交面でも、平城京は国の顔でした。
遣唐使や新羅からの使節はこの都を訪れ、その壮麗さに驚いたと記録があります。
都の威容は、日本が国際的に存在感を示す手段でもあったのです。
こうして平城京は、日本の政治と外交の中心として、奈良時代を通じて大きな役割を果たしました。
経済発展の基盤作り（ボリューム増）
平城京建設は経済にも大きな影響を与えました。
まず、建設そのものが巨大な公共事業であり、各地の職人、木材、瓦、金属が都へと運び込まれました。
この物流の活発化は、道路や河川交通の整備を促しました。
市場では地方の特産品や外国からの輸入品が並び、人々は新しい食材や道具を手にするようになりました。
例えば、唐からの絹織物や香料は貴族の間で高級品として人気を集め、国内の工芸技術にも影響を与えました。
また、租庸調制度によって集められた税は、平城京の維持や寺院建設、役所の運営に使われました。
この安定した財源があったからこそ、長期的な都市運営が可能になったのです。
都の周辺では農地開発が進み、都の人口を支えるための食糧供給体制が整えられました。
田畑を耕す農民、物資を運ぶ商人、工芸品を作る職人、そしてそれらを管理する役人。
平城京はこうした多様な人々の営みを束ね、経済活動のハブとして機能したのです。
平城京遷都後の影響（ボリューム増）
平城京遷都の影響は、元明天皇の治世を超えて続きました。
まず、都が固定されたことで、政治や文化の発展が継続的に行われる環境が整いました。
平城京を舞台に、仏教や芸術、学問が一層発展します。
寺院は宗教だけでなく学問や医療の場として機能し、役所は制度改革や外交交渉を支える場となりました。
こうして奈良時代は、日本文化の黄金期の一つとなります。
さらに、平城京は日本の都市計画のモデルとなり、後の平安京（京都）にも大きな影響を与えます。
碁盤目状の区画、中央の広い通り、北の宮殿配置といった設計思想は、その後の都づくりに受け継がれました。
民衆にとっても、平城京は新しい時代の象徴でした。
市場に並ぶ異国の品々、祭りや儀式の賑わい、朱塗りの建物群。
これらは「都に行けば新しい世界が見られる」という憧れを生み、地方から人を引き寄せる力となったのです。
元明天皇の晩年とその後の評価
退位と譲位の背景
715年、元明天皇は譲位を決意しました。
その理由は、年齢と体調の問題、そして次世代への円滑な権力移行でした。
譲位の相手は娘の氷高内親王、すなわち後の元正天皇です。
母から娘へと皇位が直接継承された例は、日本史上でも珍しいものでした。
この継承は、血統の安定と政治の継続性を重視した結果です。
当時の朝廷は、藤原不比等ら有力貴族によって支えられていましたが、天皇の存在感は依然として大きく、譲位も形式だけではありませんでした。
元明天皇は、譲位後も上皇として朝政に影響を与え、都の安定に寄与しました。
譲位の詔には、「若き者に道を譲る」という自然な世代交代の精神が込められていました。
この柔らかな権力移行は、後の時代にも影響を与える模範となります。
晩年の生活
譲位後の元明天皇は、平城京の宮殿の一角で静かに暮らしました。
しかし、その生活は完全な隠居ではなく、文化事業や仏教行事への参加を続けています。
古事記の普及や寺院への寄進、学者や僧侶の保護など、彼女の関心は文化と信仰に向けられていました。
時には娘である元正天皇と政務について意見を交わし、経験豊かな助言者として役割を果たしました。
宮中では、四季折々の行事が行われ、元明上皇もその多くに出席しました。
春には花見、秋には月見が催され、和歌や漢詩を詠む場もあったと伝えられています。
それはまるで、政治の喧騒を離れ、文化の香りに包まれた穏やかな晩年でした。
彼女の生活は、天皇としての厳格さと、一人の女性としての静かな日常が交差する、独特の時間だったのです。
死後の評価と伝承（ボリューム増）
元明天皇は721年、61歳で崩御しました。
その死は宮中だけでなく、全国に悲しみを広げました。
死後、彼女は「平城京を開いた天皇」として記憶されます。
また、古事記完成の時代を治めたことから、日本文化の守護者という評価も受けました。
この二つの功績は、後の歴史書『続日本紀』にも明確に記されています。
地方では、元明天皇を偲んだ歌や伝承が残されました。
ある地域では、平城京建設に関わった先祖を誇り、毎年の祭りでその名を称える風習が生まれたとも言われます。
歴史学者の間では、元明天皇は「つなぎ役の女性天皇」という従来のイメージから、「改革を成し遂げた統治者」へと再評価されています。
この再評価は、平城京遷都や律令政治の安定が、単なる偶然ではなく彼女の強い意志の産物であったことを示しています。
こうして元明天皇は、日本史の中で、静かながら確かな足跡を残した天皇として位置づけられています。
歴史学者による評価（ボリューム増）
現代の歴史学者は、元明天皇を高く評価しています。
その理由の一つは、彼女が「継承期の安定化」という難しい課題を見事に乗り越えた点です。
律令制の運用は軌道に乗り始めたばかりで、失敗すれば国家運営が崩れる可能性もありました。
しかし、彼女は中央集権の仕組みを強化し、制度の定着を促しました。
平城京遷都という大胆な政策も、結果的に奈良時代の繁栄を導く礎となりました。
また、女性としての柔らかさと、統治者としての厳しさを両立させたことも特徴です。
これは後の推古天皇や持統天皇とも共通しますが、元明天皇は文化政策と都市計画の両面で成果を上げた点で際立っています。
一部の学者は、「元明天皇がいなければ奈良時代は成立しなかった」とまで述べています。
つまり、彼女は歴史の歯車を一気に進めた存在であり、日本古代史の重要人物の一人なのです。
現代における元明天皇の意義
現代から見ても、元明天皇の存在は多くの示唆を与えてくれます。
政治における女性リーダーの可能性、都市計画の重要性、文化と国家の結びつき。
これらは今も変わらず価値あるテーマです。
彼女の政治は、強権的ではなく、制度を整え、人材を育て、文化を守るという「長期的視野」に基づいていました。
この姿勢は、短期的な成果を追いがちな現代政治においても学ぶべき点が多いでしょう。
また、元明天皇が築いた平城京は、今も遺跡として残り、観光や歴史教育の場として人々を惹きつけています。
千年以上の時を経ても、その影響力は色褪せていません。
元明天皇を知ることは、日本の過去を学ぶだけでなく、未来へのヒントを得ることにもつながるのです。
元明天皇は何をした人？まとめ
元明天皇は、日本史の中でも重要な転換期を担った女性天皇でした。
彼女の在位はわずか8年ですが、その間に平城京遷都という大事業を成し遂げ、律令制度を安定させ、古事記の完成など文化面でも大きな成果を残しました。
元明天皇の政治は、権力の集中だけでなく、経済や文化の発展、庶民の生活改善にも目を向けたバランス感覚が特徴です。
それは「強い支配者」というよりも、「国全体を見守る母」のような存在感でした。
また、平城京遷都後に生まれた文化や経済の繁栄は、後の奈良時代を形作る基盤となり、その影響は平安京、さらには現代にまで続いています。
元明天皇は、つなぎ役ではなく、新しい時代を切り開いたリーダーでした。
彼女を知ることは、日本の歴史を理解する上で欠かせないだけでなく、現代の政治や社会にも示唆を与えてくれるのです。
