「嫌われる勇気」という言葉にドキッとしたことはありませんか?
最近よく耳にするアドラー心理学ですが、「そもそもアドラーってどんな人?」と疑問に思っている方も多いはず。
本記事では、アドラーの生涯から代表的な考え方、他の心理学者との違い、さらには日常での実践方法まで、やさしく解説します。
心理学初心者でもスッと理解できるように、難しい用語は使わず、すぐに役立つ視点をたっぷりご紹介。
「人間関係がつらい」「自分に自信がない」そんなあなたに、心が軽くなるヒントをお届けします。アドラー心理学の世界をのぞいてみましょう。
アドラーってどんな人?生涯をざっくり解説
オーストリア生まれの医師から心理学者へ
アルフレッド・アドラーは、1870年にオーストリアのウィーンで生まれました。
子ども時代は体が弱く、肺炎やくる病に悩まされていたことで、病気や死に対して強い関心を持つようになりました。
そうした経験から「人を助ける仕事をしたい」と考え、医師の道に進みます。
最初は眼科医としてスタートしましたが、やがて一般内科へと転向します。
人々の心の問題にも関心を持つようになった彼は、身体だけでなく「心も治したい」と思うようになります。
この思いが、後の心理学者としての道へとつながっていきました。
フロイトと仲間だったけど、違う道へ
アドラーは、あの有名なジークムント・フロイトと出会い、「ウィーン精神分析協会」の創設メンバーになります。
当初はフロイトの理論に共感していたものの、次第に「人は無意識に支配される存在ではない」という持論を持つようになります。
この考え方の違いから、フロイトとアドラーは激しく対立。
1911年に協会を脱退し、独自の理論「個人心理学」を提唱するようになります。
「個人心理学」を提唱して独自の理論を展開
アドラーの「個人心理学」は、文字通り「ひとりの人間」としての生き方に注目する心理学です。
人間は環境や過去に縛られるのではなく、自分の意思と目的によって未来を選び取っていくという考えがベースです。
彼は「劣等感」や「優越性の追求」などの概念を使って、人間の行動や性格をわかりやすく説明しました。
これは後に多くの心理学者に影響を与えることになります。
教育・カウンセリングへの応用
アドラーの理論は、とても実用的でした。
彼は理論だけでなく、実際の教育やカウンセリングの現場で役立つアプローチを多数提案しました。
たとえば「ほめるのではなく勇気づける」「子どもを信じて見守る」など、今の子育て論でも通用する視点を多く持っています。
教師向けに講義をしたり、相談活動を行ったりと、教育現場にも深く関わっていました。
日本でのアドラー人気のきっかけは?
アドラーの名前が日本で広く知られるようになったのは、2013年に出版された『嫌われる勇気』という本のヒットがきっかけです。
この本では、哲学者と青年の対話形式でアドラー心理学がやさしく解説され、多くの人の心に刺さりました。
「自分の人生を自分で決めていい」「他人の期待に応える必要はない」といったメッセージが、現代人の悩みにぴったりだったのです。
今では教育、ビジネス、自己啓発などさまざまな分野で、アドラーの考え方が活用されています。
アドラー心理学って何?特徴を簡単にまとめてみた
劣等感は悪いことじゃない
アドラー心理学では、「劣等感」は決して悪いものではありません。
むしろ、それをバネにして成長するためのエネルギーだと考えます。
たとえば「自分は運動が苦手」と感じた子どもが、練習を重ねて少しずつ上達していく。
このように、劣等感は「自分を変えたい」という原動力になるのです。
ただし、劣等感が強すぎて「自分には無理だ」と思い込んでしまうと、逆にやる気を失ってしまうこともあります。
アドラーは、それを「劣等コンプレックス」と呼び、注意を促しました。
大切なのは、劣等感と上手に付き合い、それを前向きなエネルギーに変えることです。
人は目的に向かって行動している
アドラー心理学の中心にあるのが「目的論」です。
つまり、人は過去の経験によって動かされるのではなく、未来の目的によって行動するという考えです。
たとえば「引きこもりがちになる人」は、過去に傷ついた経験があるからではなく、「人と関わるのが怖いから避けている」という目的があるということです。
この考え方を持つと、自分の行動を「なぜそうしているのか?」と客観的に見つめ直すことができます。
そして「それは本当に自分の望む行動か?」と問い直すことで、行動を変えるヒントが見えてきます。
課題の分離:人の問題を背負わない
アドラー心理学でとても有名な考え方が「課題の分離」です。
これは、「その問題は誰の課題か?」を見極めることを意味します。
たとえば、子どもが勉強しないのは子どもの課題であり、親がそれを無理に解決しようとするのは違うという考え方です。
親は「勉強するように育てる責任」があるかもしれませんが、「勉強するかどうか」は子どもの責任です。
この考え方を取り入れることで、人間関係において無駄に背負いすぎるストレスを減らすことができます。
共同体感覚って何?
アドラーがとても大切にした言葉に「共同体感覚」があります。
これは「他者を仲間として感じ、社会の中で自分の役割を果たす意識」のことです。
人は一人では生きられません。
他人と協力し、助け合い、信頼し合って生きることで、自分自身もより豊かになります。
この感覚を育てることが、人間関係を良くし、自己肯定感を高めるカギになるのです。
ほめない・叱らない教育の意味
アドラーは「ほめる」や「叱る」といった上下関係を作るコミュニケーションを避けるべきだと説いています。
なぜなら、それは相手を「コントロール」する手段だからです。
代わりに必要なのは「勇気づけ」です。
たとえば「よく頑張ったね」と評価するのではなく、「やり遂げたこと、あなた自身がどう感じている?」と問いかける。
こうしたやり取りが、自信と自立を育てるとアドラーは考えました。
フロイトやユングとどう違うの?他の心理学者との比較
フロイトは「過去重視」アドラーは「未来重視」
ジークムント・フロイトの理論では、人間の行動は「過去の経験」、特に幼少期のトラウマや無意識の欲求に強く影響されるとされています。
彼の考え方は「原因論」と呼ばれ、何か問題が起きたときには「なぜそうなったのか」という原因を探すアプローチです。
一方で、アドラーは「目的論」に立ちます。
人は過去ではなく、「今こうしたい」「こうなりたい」という目的に向かって行動していると考えました。
たとえば、会社に行けない人に対してフロイトは「過去に何かトラウマがあるのでは?」と探りますが、アドラーは「会社に行かないことで何を得ようとしているのか?」と問いかけるのです。
この違いが、アドラー心理学の大きな特徴のひとつです。
ユングは「無意識」アドラーは「目的意識」
カール・グスタフ・ユングは、人の心には「集合的無意識」という、民族や文化を超えて共通する深層心理があると考えました。
夢や神話、宗教などにその痕跡が現れるとし、象徴やイメージを重視するのが特徴です。
対してアドラーは、人間の行動には意識的な「目的」があると考えました。
つまり「なぜこういう行動をするのか」には、明確な理由や意図があるという立場です。
ユングが「深く掘る」心理学であるなら、アドラーは「前を向く」心理学とも言えます。
対人関係へのアプローチが違う
アドラーは、人間の悩みのほとんどは「対人関係」にあると断言しています。
そして、その関係性をどう築くかに焦点を当てました。
たとえば、他人からどう見られるか気になる人には「他人の評価は他人の課題」として切り離す視点を持たせます。
これは非常に現代的で実用的な考え方です。
一方、フロイトやユングは、より内面世界に重点を置いており、「自分の内側を理解すること」に力を入れます。
自己理解 vs 他者との関係
フロイトやユングの理論は、自分自身の内面を理解することが中心です。
無意識や夢、深層心理を分析し、心の構造に迫ろうとします。
しかしアドラーは、自分を理解するだけでなく「他者とのつながりの中で自分を位置づける」ことに価値を置きます。
つまり、社会の一員としてどう生きるか、という「他者との関係」が非常に大切だと考えたのです。
この視点は、孤立しがちな現代人にとって非常に救いになる考え方とも言えるでしょう。
現代心理学への影響力はどっちが強い?
影響力という点では、フロイトもユングもアドラーも現代心理学に大きな足跡を残しています。
しかし「現場で使われる心理学」という意味では、アドラー心理学が近年非常に注目されています。
教育やカウンセリング、ビジネスなど、実際の人間関係にすぐ役立つ理論が豊富だからです。
また、「勇気づけ」「課題の分離」など、誰でも使える実践的な技法があるのも魅力です。
深く学ぶにはフロイトやユングも欠かせませんが、日常に活かすならアドラー心理学がぴったりだと言えるでしょう。
日常で使える!アドラー心理学の考え方5選
「課題の分離」で人間関係がラクになる
「課題の分離」は、アドラー心理学の中でも特に人気のある考え方です。
これは「その問題は誰のものか?」を見極め、自分の課題と他人の課題を分けるという方法です。
たとえば、友達が機嫌が悪いとき、「私が悪いのかな?」と悩む人も多いでしょう。
でも、その機嫌は友達の課題であり、自分がコントロールするものではありません。
こうした線引きをすることで、無駄なストレスや罪悪感を抱かずにすみます。
もちろん冷たい態度を取るのではなく、「それは相手が決めること」と割り切る勇気を持つのが大切です。
人間関係がつらいと感じたら、まず「この問題は誰の課題?」と考えてみましょう。
驚くほど心が軽くなることがあります。
「勇気づけ」で自分も他人も元気になる
アドラー心理学では「ほめる」よりも「勇気づける」ことが重要とされています。
勇気づけとは、「できるよ」「やってごらん」と相手の力を信じて支えることです。
たとえば、子どもが失敗したときに「次はうまくいくよ」「やってみたことが大事だよ」と声をかける。
これが勇気づけです。
ほめると上下関係が生まれやすくなりますが、勇気づけは対等な関係を築きます。
また、自分自身にも使えます。
「うまくいかなかったけど、挑戦した自分はすごい」
そう声をかけるだけで、次の行動への力が湧いてきます。
子育てに効く「共同体感覚」
アドラーが最も大切にした価値観のひとつが「共同体感覚」です。
これは「自分は社会の役に立っている」という実感のこと。
子育てにこの考え方を取り入れると、子どもは「自分は大切な存在だ」と感じることができます。
その結果、自信を持ち、人と協力する力が育ちます。
家庭で「ありがとう」「助かったよ」といった感謝の言葉を伝えるだけでも、共同体感覚は育ちます。
子どもが家事を手伝ったときに「すごいね」と褒めるのではなく、「とても助かったよ」と伝えると良いです。
こうした言葉の積み重ねが、子どもの社会性を自然に伸ばします。
職場で使える「目的論的思考」
仕事で悩みがあるとき、「なぜこうなった?」と原因を探すより、「これからどうしたい?」と未来を考える方が前向きです。
これがアドラーの「目的論的思考」です。
たとえば、会議で発言できない自分に対して「過去の失敗がトラウマだから」と考えるのではなく、「失敗したくないから黙っている」と目的を意識します。
そうすることで、「じゃあどうすれば発言できるか?」という次の行動が見えてきます。
原因より目的に注目することで、前に進む力が湧いてくるのです。
SNSにも応用できるアドラー的距離感
現代の人間関係は、SNSによって複雑になっています。
「いいねが少ない」「フォロワーが減った」と落ち込む人も多いでしょう。
そんなときこそアドラーの「課題の分離」と「他人の評価を気にしない勇気」が役立ちます。
誰がどう思うかは相手の課題。
自分がどう行動するかは自分の課題です。
他人の期待に合わせて生きるのではなく、自分の信じる価値観で発信することが、長い目で見て心地よい人間関係を作るコツです。
アドラーの考えをもっと深く知るには?おすすめの本と勉強法
『嫌われる勇気』で入門しよう
アドラー心理学を学ぶ最初の一歩として、多くの人が手に取っているのが『嫌われる勇気』です。
岸見一郎氏と古賀史健氏による対話形式の構成で、哲学者と青年がアドラーの思想を深掘りしていきます。
「他人に嫌われても、自分の人生を生きる勇気を持とう」というメッセージは、自己肯定感に悩む多くの現代人に響きました。
難しい専門用語が少なく、日常生活に落とし込んだ実例も豊富なので、心理学初心者でもすんなり理解できます。
まずはこの一冊から読み始めれば、アドラーの考え方がぐっと身近に感じられるようになるでしょう。
『幸せになる勇気』で実践編へ
『嫌われる勇気』を読んで共感した方には、続編である『幸せになる勇気』をおすすめします。
こちらは教育や子育て、人間関係など、具体的な実践へのアドバイスがより多く含まれています。
「アドラーの考え方はわかったけど、実際にどう行動すればいいの?」という疑問に答えてくれる一冊です。
特に教師や保護者、職場のリーダーにとっては、実際の現場で使えるヒントが満載です。
この2冊を読むだけでも、アドラー心理学の理論と実践の両方をバランスよく学ぶことができます。
アドラー自身の著作を読んでみる
もっと本格的にアドラー心理学を学びたいという方には、アドラー本人の著作もおすすめです。
代表作には『人はなぜ神経症になるのか』『生きる意味を求めて』『人間知の心理学』などがあります。
これらの本では、アドラー自身の言葉で、彼の理論が展開されています。
ただし、文章は少し堅めで、哲学的な表現も多いため、ある程度心理学に慣れてから読むと理解が深まります。
時間はかかるかもしれませんが、原典に触れることでより深い学びが得られるのは間違いありません。
YouTubeやポッドキャストも活用
本を読むのが苦手な方や、スキマ時間を使って学びたい方には、YouTubeやポッドキャストの活用がおすすめです。
「アドラー心理学 解説」などで検索すれば、たくさんの無料コンテンツが見つかります。
図解やアニメーションを使ってわかりやすく説明してくれる動画や、育児・職場での活用事例を紹介する音声番組もあります。
こうしたコンテンツを通じて、アドラー心理学を日常生活にどう生かすかが自然とイメージできるようになります。
繰り返し聞いたり視聴したりすることで、理解も定着しやすくなります。
読書会・講座で仲間と学ぶのも◎
一人で学ぶのが苦手な方や、もっと深く実践的に学びたい方には、アドラー心理学の読書会や講座への参加もおすすめです。
全国のカウンセラーや教育者が開催する講座や勉強会では、参加者同士で意見を交換しながら理解を深められます。
「こんなとき、アドラー心理学ではどう考えるのか?」といった実践的な議論ができるのも魅力です。
また、共通の価値観を持った仲間との出会いは、自己成長にもつながります。
対話と共有を通して、アドラーが大切にした「共同体感覚」も自然に身についていくことでしょう。
まとめ
アルフレッド・アドラーは、「個人心理学」という新しいアプローチを通じて、人間の行動や心の在り方を根本から見直しました。
フロイトやユングとは違い、過去ではなく未来に目を向け、「人は目的を持って生きる」という考えを強調したのです。
アドラー心理学は、日常のあらゆる場面に活かすことができる実践的な理論です。
劣等感との向き合い方、人間関係の考え方、子育てや仕事での行動指針など、誰にとっても役立つ知恵が詰まっています。
「課題の分離」「勇気づけ」「共同体感覚」など、シンプルで力強い考え方を学ぶことで、より自分らしく、他人との関係も豊かに築けるようになります。
もし今、誰かとの関係で悩んでいたり、自分に自信が持てなかったりしているなら、アドラーの言葉にきっとヒントがあるはずです。
まずは一歩、彼の考え方に触れてみてください。
きっと人生の見え方が変わってきます。