幕末の日本史を語るとき、多くの人が真っ先に思い浮かべるのは西郷隆盛や坂本龍馬、大久保利通といった華やかな志士たちでしょう。
しかし、その陰で時代の流れを巧みに操り、歴史を大きく動かした人物がいます。
それが薩摩藩主の父、島津久光です。
彼は藩主ではない立場ながら、幕末の政治・外交・軍事に深く関わり、薩摩藩を倒幕と近代化の道へと導きました。
公武合体から薩英戦争、西郷・大久保との複雑な関係――。
久光の生涯は、まさに「表舞台の影で歴史を支えた男」の物語です。
この記事では、島津久光が「何をした人」なのかを、簡単かつ情景が浮かぶ形で解説していきます。
読み終えるころには、あなたの中で彼の評価が少し変わっているかもしれません。
幕末の島津久光とは？その人物像と生涯の概要
薩摩藩を支えた島津家の重要人物
島津久光という名前を聞くと、西郷隆盛や大久保利通ほどの知名度はありません。
しかし幕末という激動の時代において、彼は薩摩藩の政治を大きく動かした人物です。
しかも彼は藩主ではなく、「藩主の父」という立場。
正確には第12代藩主・島津忠義の実父であり、政治の実権を握っていたのです。
この立ち位置は、まるで舞台裏から大芝居を操る黒衣（くろご）のよう。
表舞台に立つことは少なくとも、藩の運命を左右する指示を出していました。
薩摩藩が江戸幕府と朝廷の間で揺れ動く中、その舵取り役を務めたのが久光でした。
また彼は、豪胆でありながらも慎重。
「時に大胆、時に細心」という性格は、戦乱の時代を生き抜くには不可欠だったでしょう。
幕末の歴史を語るうえで、彼を外すことはできません。
生まれと家族背景
島津久光は1817年、薩摩藩主・島津斉宣（なりのぶ）の五男として生まれました。
兄弟の中でも、幼い頃から聡明で感情をあまり表に出さない少年だったと伝えられています。
薩摩は古くから武勇で知られた藩で、武士たちは「薩摩隼人」と呼ばれるほど誇り高い存在でした。
そんな環境で育った久光は、家中の武士たちの気質や習慣を幼いころから肌で感じ取っていたはずです。
家族の中でも大きな転機となったのは、兄である斉彬（なりあきら）の存在です。
斉彬は開明的な藩主として知られ、西洋技術の導入にも積極的でした。
久光は兄の方針を近くで学び、後に自分の政治にもその影響を強く反映させます。
幕末の薩摩藩が果たした役割を考えると、この兄弟の組み合わせはまさに歴史のいたずらとも言えるでしょう。
幕末当時の薩摩藩の状況
久光が政治に関わるようになった頃、薩摩藩は経済的にも軍事的にも決して安泰ではありませんでした。
表向きは強大な藩に見えても、実際には借金や内政の課題を抱えていたのです。
その一方で、薩摩藩は南西の海をにらむ戦略的な位置にあり、外国船との遭遇も増えていました。
鎖国の時代とはいえ、遠くから黒船が近づく姿を見た薩摩の武士たちは、胸騒ぎを覚えたことでしょう。
国内では江戸幕府の力が衰え、朝廷の権威が揺れ動く中で、薩摩藩はどちらに付くべきかの判断を迫られていました。
久光が後に推し進める「公武合体」も、こうした時代背景の中から生まれたものです。
久光の性格や評価
島津久光は、感情を表に出すことが少ない人物でした。
しかし、ひとたび決断すれば実行力は抜群。
薩摩の政治を支える中で、彼は慎重さと冷静さを何よりも重んじました。
一方で、幕末の志士たちからは「保守的」と見られることもありました。
西郷隆盛のように理想を追い求めるタイプとは対照的で、現実的で安定志向だったのです。
この違いは、後に西郷との衝突を生む原因ともなります。
それでも、久光がいなければ薩摩藩は幕末の荒波を乗り切れなかったかもしれません。
晩年と死後の影響
明治維新後、久光は新政府の政治には積極的には関わりませんでした。
むしろ新しい時代の急激な変化を、少し距離を置いて見ていたようです。
1877年の西南戦争では、かつての部下・西郷隆盛が政府に反旗を翻しました。
この出来事は久光にとっても複雑な心境をもたらしたに違いありません。
1887年、久光は薩摩の地で静かにその生涯を閉じます。
彼の死後も、その政治判断や藩の方針は薩摩出身の人々に影響を与え続けました。
まるで川の流れが海に注いだあとも、その水が大海に混ざって広がっていくように、久光の足跡は明治以降の日本にも確かに残っているのです。
島津久光が果たした幕末での大きな役割
公武合体の推進者
幕末、日本は開国か攘夷かで揺れていました。
そんな中、島津久光が打ち出したのは「公武合体」という考え方です。
これは朝廷と幕府が協力して国を治めるというもので、争いを避けて秩序を守ろうという現実的な方針でした。
久光は、外国の脅威に対抗するためには内乱を避けるべきだと考えていました。
まるで家の外から嵐が近づいているときに、家族が内輪もめをしてはいけないという理屈です。
1862年、久光は兵を率いて上洛し、朝廷と幕府の間を取り持つ政治工作を行います。
これが「文久の改革」へとつながり、江戸幕府の政治体制にも影響を与えました。
理想主義の志士たちからは「消極的」と見られたかもしれませんが、久光の目的はあくまで安定でした。
その冷静さこそ、激動の時代に必要な資質だったといえるでしょう。
文久の改革への貢献
久光の上洛は、江戸幕府にとっても大きな衝撃でした。
薩摩藩は幕末有数の強藩であり、その代表が直接京都で動き出したのですから、幕府も無視できません。
1862年、江戸では政治の刷新を求める声が高まり、「文久の改革」が始まります。
この改革では老中や役職の人事が大きく変わり、幕政の風向きも変化しました。
久光はこの動きを後押しし、政治の刷新に一定の成果を残しました。
ただし、彼はあくまで「急進的すぎない改革」を望んでおり、西郷隆盛のような徹底的な倒幕論者とは一線を画していました。
まるで荒れた庭を一気に掘り返すのではなく、必要な場所だけ整える庭師のようなやり方。
それが久光の政治スタイルだったのです。
上京と政治活動
久光の上京は一種の「武力を背景にした外交」でもありました。
彼は約1,000名の兵を連れて京へ向かい、その存在感で朝廷や幕府に圧力をかけました。
京都では朝廷の重臣たちと会い、政治の方向性について議論を重ねます。
この動きは、薩摩藩の政治的立場を一気に高める結果となりました。
しかし同時に、久光の周囲には過激な尊皇攘夷派も集まり始めます。
彼らの熱は時に制御不能になり、後の「寺田屋事件」のような悲劇を生むことになります。
久光にとって、この時期は希望と混乱が入り混じる難しい舵取りの連続だったのです。
江戸幕府との関係性
久光は幕府を完全に倒すつもりはありませんでした。
むしろ、幕府を支えつつ朝廷の力も高めることで、バランスを取ろうとしたのです。
しかし、幕府内には薩摩の影響力を快く思わない勢力もありました。
「薩摩は何を考えているのか」という不信感が、少しずつ積み重なっていきます。
それでも久光は外交的手腕を発揮し、幕府と朝廷の間に立つ調整役を続けました。
これはまさに、壊れかけた橋の上で両岸をつなぎ止めようとするような危うい仕事でした。
その後の薩摩藩の変化
久光の政治方針は、薩摩藩の内部にも大きな変化をもたらしました。
彼は藩の軍備を整え、西洋式の装備や技術を少しずつ取り入れていきます。
これは、後の薩英戦争での迅速な対応にもつながりました。
また、薩摩藩内での人材登用にも影響を与え、西郷隆盛や大久保利通といった後の維新の立役者たちが活躍する土台となりました。
表舞台では理想を掲げる志士たちが注目されがちですが、その背後で現実的な土台を作った久光の存在は見逃せません。
まさに「縁の下の力持ち」といえるでしょう。
生麦事件と薩英戦争との関わり
生麦事件の発端
1862年、島津久光の一行は京都からの帰途、江戸へ向かう途中に神奈川を通過していました。
その道中、現在の横浜市鶴見区あたりで、思わぬ事件が起こります。
行列の前を、イギリス人商人4人が馬に乗って横切ったのです。
当時の武士社会では、大名行列の前を無断で横切るのは大変な無礼。
しかも薩摩藩士たちは武士の面目を重んじる気質でした。
結果、薩摩藩士がイギリス人の一人を斬殺し、二人に重傷を負わせるという衝撃的な事件に発展します。
これが後に「生麦事件」と呼ばれることになりました。
久光自身は直接刀を振るったわけではありません。
しかし、この事件は彼の政治にも外交にも、重くのしかかることになります。
イギリスとの対立の経緯
生麦事件の報せは、すぐに横浜のイギリス公使館へ届きました。
イギリスはこの事件を重大な侮辱と受け止め、幕府に対して謝罪と賠償を要求します。
幕府は賠償に応じますが、薩摩藩は「藩士は武士の礼儀を守っただけ」として、賠償金の支払いを拒否します。
この姿勢が、イギリスとの関係を一気に悪化させました。
久光としては、武士の名誉と国際関係の板挟みの中で、どちらを優先すべきか苦しい判断を迫られたのです。
まさに、目の前で二つの大きな岩がぶつかり合い、その間に立たされたような状況でした。
薩英戦争の背景
賠償金をめぐる対立は、やがて軍事衝突へと発展します。
1863年、イギリス艦隊は鹿児島湾に進入し、薩摩藩との武力衝突に突入しました。
これが「薩英戦争」です。
薩摩側は湾岸に大砲を据えて迎え撃ち、イギリス艦隊も砲撃を加えます。
戦闘は数日間続き、薩摩の市街地には火の手が上がりました。
この戦争は、どちらの国も決定的な勝利を得ないまま終結します。
しかし、戦後には不思議なことに両者の関係が改善され、薩摩はイギリスから最新兵器や技術を導入するようになりました。
戦後の薩摩藩と西洋化
薩英戦争を経て、薩摩藩は西洋の軍事力と技術力の高さを痛感します。
久光は藩内に命じ、西洋式の砲台や軍艦の整備を急がせました。
この方針転換は、まるで敵として戦った相手から学び取る柔軟な発想でした。
そして、薩摩藩士を海外へ留学させる動きも始まりました。
後に活躍する五代友厚や寺島宗則らも、この時期の政策の影響を受けています。
つまり、薩英戦争は単なる敗北や勝利の話ではなく、薩摩が近代化へ踏み出す大きなきっかけになったのです。
外交面での久光の影響
生麦事件から薩英戦争に至る一連の流れは、日本の外交史においても重要な転換点でした。
久光は武士の名誉を守ろうとする一方で、結果的に外国との協調路線へ舵を切ります。
もし彼が最初から強硬な攘夷を続けていれば、薩摩は国際的に孤立していたかもしれません。
逆に、即座に賠償と謝罪をしていれば、藩士の士気や名誉は大きく損なわれていたでしょう。
その間を取るような判断は、批判も受けましたが、結果的には薩摩藩を近代化へ導きました。
久光の外交感覚は、武士の誇りと現実的な国際感覚の両立を目指したものでした。
西郷隆盛や大久保利通との関係
幼少期からの人間関係
島津久光と西郷隆盛、大久保利通の関係は、幕末という大河ドラマの序章から始まっていました。
西郷と大久保は薩摩の下級武士の出身で、若い頃から互いに切磋琢磨していましたが、久光はその二人を見出し、藩政の中で活躍する機会を与えた人物でもあります。
久光はもともと、能力のある者には身分に関係なくチャンスを与える一面を持っていました。
しかし同時に、主従関係や礼儀を非常に重んじる性格でした。
そのため、西郷や大久保に対しても、親しさよりは「藩士としてのけじめ」を求めました。
当時の薩摩は、城下町の空気が濃く、城山の背後に見える桜島が日々の暮らしを見守るようにそびえていました。
その景色の中で、三人は別々の立場ながらも、同じ藩の未来を考える青年・中年期を過ごしていきます。
まるで同じ船に乗りながらも、舵を握る者、帆を張る者、漕ぐ者と役割が違うような関係でした。
久光は二人を信頼していましたが、時にその理想主義や急進的な行動に頭を抱える場面もあったといいます。
これが後に、協力と衝突を繰り返す複雑な関係の土台となるのです。
政治理念の違い
久光と西郷、大久保の最大の違いは、政治のゴールにありました。
西郷や大久保は、幕府を打倒して新しい国家を作る「維新」を理想に掲げていました。
一方の久光は、あくまで幕府と朝廷が協力する「公武合体」を主張し、急激な変革には慎重でした。
この違いは、まるで急流を一気に下ろうとする舟と、ゆっくり蛇行しながら安全に進もうとする舟の違いのようです。
目的地は同じでも、進む道筋が大きく異なっていました。
久光は現実的で、経済や国防のバランスを見ながら政治を進めました。
西郷や大久保は民衆や若手藩士の支持を集める一方で、久光の慎重さを「消極的」と感じることもあったでしょう。
互いの考えの違いはやがて距離を生み、やがては一時的な絶縁状態にもつながります。
しかし、その裏には、互いに能力や人柄を認め合う不思議な信頼感もありました。
西郷との対立と和解
西郷隆盛との関係は、特に波乱に満ちていました。
文久2年（1862年）の寺田屋事件では、久光の命令に背く過激派志士たちが粛清され、西郷もその処遇をめぐって久光と激しく対立します。
この時、西郷は一時的に失脚し、奄美大島へ島流しとなりました。
しかし、この冷却期間が完全な決別にはなりませんでした。
久光もまた、西郷の誠実さや行動力を理解しており、必要なときには彼を再び登用します。
二人の関係は、時に大波に揺られながらも切れることのない太い綱のようでした。
明治維新が近づくにつれ、久光と西郷は再び同じ方向を向きます。
それは薩摩が倒幕に大きく動き出す直前のことでした。
お互いのやり方は違っても、最後には「国を守る」という共通の目標が二人を結びつけたのです。
大久保との協力と衝突
大久保利通は西郷よりも計算高く、戦略家としての一面を強く持っていました。
久光はその冷静な判断力を高く評価し、藩政の中枢に置きました。
しかし、大久保もまた久光と政治理念が完全に一致していたわけではありません。
久光は保守的な立場を崩さず、大久保はより改革的な路線を志向していました。
それでも二人は互いの強みを活かしながら、幕末の政治工作を進めていきます。
特に薩長同盟の成立前夜、大久保は裏で長州との交渉を進め、久光には慎重な立場を取らせるという役割分担をしました。
これは、表と裏の顔を巧みに使い分ける「二枚扉」のような作戦でした。
最終的に、明治維新後はその政治方針の違いが再び表面化しますが、久光は大久保の才覚を最後まで認めていました。
明治維新への間接的影響
久光は、直接「維新の元勲」として名を残すことは少ないかもしれません。
しかし彼が西郷や大久保を見出し、育て、時に鍛えたことが、明治維新を可能にしたのは間違いありません。
もし久光が彼らを藩政から遠ざけていれば、薩摩は維新の主役にはなれなかったでしょう。
逆に、完全に自由を与えていたら、暴発して藩が危機に陥っていたかもしれません。
この「抑えながら活かす」という政治姿勢は、師弟関係のようでもあり、時に親子のようでもありました。
西郷と大久保の影に、常に久光の影がちらつくのはそのためです。
幕末から明治への大転換は、表舞台の英雄だけではなく、こうした裏方の存在によって成し遂げられたのです。
島津久光が残した功績と評価
薩摩藩の近代化への貢献
島津久光の最大の功績のひとつは、薩摩藩の近代化を推し進めたことです。
薩英戦争の経験から、久光は西洋の軍事力の必要性を痛感し、西洋式の軍艦や大砲の導入を急ぎました。
藩内では砲台の再整備が進められ、武士たちは新しい射撃法や戦術を学ぶようになります。
また、藩士や若者を海外に派遣し、西洋の科学・技術・制度を直接学ばせる政策も始まりました。
これは「薩摩藩英国留学生」の制度へとつながり、後の日本の産業や外交に大きな影響を与えます。
近代化の歩みは、まるで巨大な蒸気機関車がゆっくりと煙を上げながら動き出すようなものでした。
最初は重く遅かったその車輪も、久光の指示と人材育成の成果によって、徐々にスピードを増していきます。
この下地があったからこそ、薩摩は明治維新の主役として動き出すことができたのです。
日本の近代化への影響
久光の政策は薩摩藩にとどまらず、日本全体の近代化にも波及しました。
西洋の技術や文化を吸収した薩摩の人材は、やがて新政府で重要な役割を担うようになります。
たとえば、五代友厚は大阪経済の基盤を作り、大久保利通は中央集権体制を整えました。
こうした人物たちは、久光の時代に海外で見聞を広めた経験を持っていました。
また、久光は教育の重要性を理解しており、藩校の充実にも力を入れました。
知識と技術を兼ね備えた人材を育てることが、国力の向上につながると考えていたのです。
明治日本が短期間で近代国家へと変貌できた背景には、久光が作った「学びの土台」が確かに存在していました。
その役割は、舞台袖から照明を支える職人のように目立たずとも不可欠なものでした。
後世からの評価
島津久光の評価は、時代や立場によって大きく異なります。
薩摩藩士の中には「藩を守った賢明な指導者」と称える者もいれば、倒幕派の志士たちからは「消極的な守旧派」と見られることもありました。
西郷隆盛との衝突や、時に厳しい処分を下したことで、感情的な反発もあったでしょう。
しかし、現代の歴史研究では、久光の現実主義や外交感覚が高く評価されつつあります。
彼の政治は、目先の勝利ではなく、長期的な安定と成長を見据えたものでした。
嵐の海であえて突き進むのではなく、最も安全な航路を探す船長のような判断だったのです。
そのため、近年では「維新の陰の立役者」という表現がよく使われます。
まさに、表舞台の光の裏で歴史を動かしていた人物でした。
久光の政策と現代への教訓
久光の政治姿勢からは、現代にも通じる教訓が読み取れます。
それは「理想と現実のバランスを取ること」の重要性です。
理想だけでは組織は空回りしますが、現実だけでは停滞します。
久光は、その両方をにらみながら行動していました。
西郷や大久保のような理想家を活かしつつ、暴走しないように抑える役割は、今でいえば企業の経営者や政治家にも必要な資質でしょう。
また、久光は敗北や失敗から学ぶ姿勢を持っていました。
薩英戦争後にすぐ方針転換し、かつての敵から学んだ柔軟さは、グローバル化した現代社会でも通用する考え方です。
歴史は繰り返すといいますが、久光の生き方はその「繰り返し」を賢く乗り越えるヒントを与えてくれます。
幕末史における位置づけ
幕末から明治への転換期、日本には数多くの英雄が現れました。
その中で、島津久光は決して派手な戦や演説で名を残したわけではありません。
しかし、薩摩という大国を動かし、倒幕や近代化の基盤を築いた影響力は計り知れません。
彼はまさに「歴史の潤滑油」のような存在でした。
目立つ歯車は西郷や大久保かもしれませんが、その歯車がスムーズに回るためには久光のような存在が不可欠でした。
久光がいなければ、薩摩は分裂や衰退に向かい、日本の近代化はもっと遅れていた可能性があります。
幕末史のパズルを完成させるには、彼というピースを欠かすことはできないのです。
島津久光は何をした人？まとめ
島津久光は、西郷隆盛や大久保利通といった幕末の英雄たちに比べると、表舞台での知名度は高くありません。
しかし、その影響力は決して小さくなく、むしろ維新の流れを下支えした存在でした。
彼の政治の根底には「安定」を守る姿勢がありました。
公武合体の推進、文久の改革、外交での舵取り、薩摩藩の近代化――。
これらはいずれも急進的な変革ではなく、現実と理想の間で最適解を探す冷静な判断から生まれています。
生麦事件や薩英戦争では、武士の名誉を守りつつも、最終的には西洋との協調路線へと舵を切りました。
この柔軟さが、薩摩を近代化へと導くきっかけとなりました。
また、西郷や大久保といった人材を発掘し、時に衝突しながらも活躍の場を与えたことは、明治維新という歴史の大事業に不可欠な布石でした。
もし久光がいなければ、薩摩は倒幕の中心的役割を果たせなかった可能性が高いのです。
幕末史における島津久光の存在は、まるで歴史という舞台の幕を静かに上げ、役者たちが活躍できるように環境を整えた舞台監督のようです。
派手さはなくとも、その功績は確かに日本の近代化の礎となりました。
