運動会やかけっこで当たり前のように聞いてきた、あのスタートの言葉。
でも、なぜ「位置について」「用意」と言うのか。
そして、よく口にされる「よーいドン」は、本当に正式な言い方なのか。
この疑問をたどっていくと、昭和初期の公募、当時の新聞、陸上競技のルール、さらに現在の日本陸連の説明までつながっていきます。
この記事では、由来だけでなく、誰の案が採用されたのか、なぜその言葉が広まったのか、いまの競技ではどう扱われているのかまで、事実ベースでわかりやすく整理しました。
「位置について、よーいドン」の由来を簡潔に
1928年ごろに整えられた日本語の出発合図が土台になっている
いま広く親しまれているスタートの言い方は、昭和のはじめに陸上競技の出発合図を日本語でそろえる流れの中で形づくられたものです。
国立国会図書館のレファレンス協同データベースでは、1928年3月4日の東京日日新聞で新しい出発合図が発表されたこと、さらに1928年の『国際陸上競技規則』と1929年の『陸上競技規則』に「位置に就いて」「用意」が確認できることが整理されています。
つまり、いま耳にする言い方の芯にあるのは、感覚的な掛け声ではなく、競技用語として整えられた「位置について」と「用意」だと考えるのが正確です。
この点を押さえておくと、由来をたどる話と、現在の正式ルールを説明する話がきれいにつながります。
英語の合図を日本語にそろえる必要があった
当時の資料では、もともと大きな大会で英語の「On your marks」「Get set」が使われていたことが確認できます。
一方で、1928年の『国際陸上競技規則』では、出発合図はその国の言葉で行う趣旨が示され、日本語の出発合図をきちんと定める意味が大きくなりました。
この流れがあったからこそ、日本の競技現場でも英語をそのまま使い続けるのではなく、日本語として通る短く明快な表現が求められたわけです。
由来をひと言でまとめるなら、英語中心だった出発合図を、日本の競技現場で使いやすい日本語へ整えた結果として生まれた表現だといえます。
ふだんの言い方と競技の正式表現は同じではない
現在の日本陸上競技連盟の競技ガイドでは、400メートルまでの競走は「位置について」「用意」の後に信号器が発せられ、400メートルを超える競走では「位置について」の後に信号器が発せられると説明されています。
現行の2026年度版ルールブックでも、「On your marks(位置について)」と「Set(用意)」が対応関係として明示されています。
このため、日常でよく聞く「よーいドン」は親しみやすい言い回しとして定着していますが、競技規則の言葉として押さえるなら「位置について」「用意」、そしてそのあとに鳴る信号が基本です。
ここを混同しないだけで、由来の説明もかなりすっきり理解しやすくなります。
どうやって生まれたのか
生まれる前は掛け声が地域や大会ごとにばらばらだった
「位置について」「用意」が定着する前は、日本の出発合図はかなり統一されていませんでした。
国立国会図書館のレファレンス協同データベースでは、明治から昭和にかけて「いいか、ひ、ふ、み」などの例が紹介され、テレビ朝日の解説記事でも「腰を上げて、待てえ」や「がってんしょん」といった掛け声が使われていたと伝えられています。
これでは、競技会ごとに選手が聞き慣れない合図に対応しなければならず、運営する側にも選手側にも負担が大きかったはずです。
とくに陸上競技のスタートは一瞬で勝負が動くので、合図の言葉がぶれること自体が競技の公平さやわかりやすさに関わってきます。
国際ルールの考え方が日本語統一を後押しした
1964年東京オリンピックでスターター補助役員を務めた野崎忠信氏の証言では、当時の国際陸連の規則では開催国の言語でスタートの合図をしてよいとされていました。
この考え方は、1928年の『国際陸上競技規則』にもつながっていて、国立国会図書館のレファレンス協同データベースでは、その国の言葉で出発合図を行う趣旨と、「位置に就いて」「用意」の表現が確認できると整理されています。
つまり、日本語の出発合図を整える必要は、単なる言い換え遊びではありませんでした。
国際競技の流れの中で、外国語を丸ごと借りるのではなく、日本語として統一された合図を持つことが、競技運営の実務として必要になっていたのです。
公募によって言葉が選ばれ、規則に組み込まれていった
国立国会図書館のレファレンス協同データベースでは、全日本陸上連盟が出発合図を公募し、新しい用語が1928年3月4日の東京日日新聞で発表されたことが紹介されています。
さらに、1929年の『陸上競技規則 昭和4年版』には、出発合図員が「位置ニ就イテ」、次に「用意」を用い、その後およそ2秒の間隔を置いて拳銃を発射する旨が記されています。
つまり、この言葉は新聞で話題になっただけで終わったのではなく、競技規則へ取り込まれたことで、実際の競技会で使われる標準語として根づいていきました。
のちに運動会や日常会話へ広がったのはその後の話で、まずは陸上競技の現場で使える実用語として定着したことが出発点です。
誰が考えたのか
確認できる範囲では「東京に住む山田さん」の案が採用された
人名については、断定しすぎない整理が大切です。
テレビ朝日の記事では、1928年3月の新聞から、東京に住む山田さんの案だったことがわかると説明されています。
また、国立国会図書館のレファレンス協同データベースでも、公募の当選作が発表されたこと、そして規則へ反映されたことが確認できます。
このため、もっとも安全に言えるのは、「公募で選ばれた山田さんの案が採用され、その後の規則に組み込まれた」というところまでです。
名前の扱いには後年の説明との差がある
人名について細かく見ると、後年の解説では山田秀夫という名が紹介されることがあります。
一方で、国立国会図書館のレファレンス協同データベースが示している一次資料の整理では、公募と新聞発表、規則への明文化までは確認できても、本文中で広く流布している細かな事情までを同じ強さで断定しているわけではありません。
このため、記事としては「東京在住の山田さんの案」と書くほうが、事実関係に対して慎重で、読み手にも誤解を与えにくい表現になります。
由来を知りたい読者にとって本当に大事なのは、個人の逸話を盛ることより、公募で選ばれた案が公式ルールへ入っていったという流れです。
大切なのは「誰の案か」だけでなく「どう定着したか」
言葉の歴史を考えると、考案者の名前だけでは広まり方は説明できません。
実際には、1928年の新聞発表、1928年の国際規則での日本語表記、1929年の国内規則への明文化という流れがそろったことで、この表現は一時的な思いつきではなく、競技会で通用する定型句になっていきました。
言い換えると、考案者の存在は出発点ですが、定着の決め手は競技規則に入り、審判やスターターが実際にその言葉でレースを運営したことにあります。
だからこそ、この表現は雑学としてだけでなく、いまでも陸上競技の説明とつながる言葉として生き残っているのです。
「よーいドン」は正式な言い方なのか
正式な競技の合図は「位置について」「用意」が基本
現在の日本陸上競技連盟の競技ガイドでは、400メートルまでの競走は「位置について」「用意」の後に信号器が発せられると説明されています。
現行の2026年度版ルールブックでも、「On your marks(位置について)」の後に選手が所定の姿勢につき、「Set(用意)」の合図で最終のスタート体勢に構え、全競技者が静止したと確認した時点で信号器を発射する流れが示されています。
このため、正式な競技用語として押さえるなら、「よーい」ではなく「用意」です。
日常では「用意」が長く伸びて発音されることがありますが、規則に書かれている語はあくまで「用意」だと理解しておくとズレません。
400メートルを超える種目では流れが変わる
陸上競技では、すべてのレースが同じ号令で始まるわけではありません。
日本陸上競技連盟の競技ガイドと2026年度版ルールブックでは、400メートルを超えるレースでは立位スタートで行い、「On your marks(位置について)」の後、全競技者が静止したことを確認して信号器を発射する流れが示されています。
つまり、「位置について」「用意」「ドン」という三段セットがいつでもそのまま使われるわけではなく、種目によっては「用意」に当たる段階がありません。
この違いを知ると、ふだんの言い回しが競技全体をそのまま表しているわけではないことがよくわかります。
「ドン」は正式用語というより号砲のイメージに近い
現行ルールや競技ガイドを見ると、正式な流れとして書かれているのは「位置について」「用意」と、そのあとに信号器を発することです。
1929年の『陸上競技規則』でも、合図語のあと、およそ2秒の間隔を置いて拳銃を発射するという構成が確認できます。
このことから、日常の「ドン」は規則そのものの語というより、最後に鳴る号砲やピストル音をわかりやすく表した言い方と考えるのが自然です。
実際、1964年東京オリンピックの準備に関する野崎忠信氏の証言でも、「位置について」から「用意」、「用意」から号砲までのタイミングが重要だったと語られており、最後の決定打が音の信号であることがよくわかります。
今でも使われているのか
日本語としての対応関係はいまも説明されている
日本陸上競技連盟の現在の競技ガイドでは、「位置について」は「On your marks」、「用意」は「Set」に対応すると明記されています。
つまり、日本語の説明としてこの表現が消えてしまったわけではありません。
むしろ、競技を学ぶうえでは、日本語と英語の対応を理解するための基本語として、いまでも十分に意味を持っています。
由来を知ると、昔の言葉を懐かしむ話ではなく、現在の競技理解にもつながる知識だとわかります。
競技会では英語の合図が使われる場面もある
日本陸上競技連盟の第95回日本選手権大会の公式ページでは、2010年からの日本選手権では英語で合図をすることが説明されています。
これは、国際ルールへの対応や不正スタート規則の改正と同じ流れの中で行われたもので、日本語の文化がなくなったというより、国際大会との整合を強めた動きとして理解するのが適切です。
そのため、競技として厳密にみると、日本語の掛け声だけを思い浮かべていると現在の大会運営とは少しずれることがあります。
一方で、日本語の対応関係自体は日本陸連の資料に残っているので、言葉として完全に消えたわけではありません。
運動会や日常会話では今も強く生きている
学校の運動会や日常会話では、何かを始める前の決まり文句として、いまでもこの言い方が広く使われます。
ただし、競技規則としては「位置について」「用意」、種目によっては「位置について」の後に信号という整理になるため、日常語と競技語は同じようでいて役割が違います。
だからこそ、この言葉の面白さは二重にあります。
ひとつは昭和初期の公募から生まれた歴史を持つこと。
もうひとつは、正式な競技用語から少し形を変えながらも、日常の日本語として今なお生き続けていることです。
「位置についてよーいドン」の由来まとめ
「位置について、よーいドン」という言い方の土台にあるのは、1928年ごろに日本語の出発合図をそろえるために整えられた「位置について」「用意」です。
その背景には、地域や大会ごとにばらばらだった掛け声を統一したい事情と、開催国の言語でスタート合図を行えるという国際ルールの考え方がありました。
公募で選ばれた案は新聞で発表され、1928年の国際規則、1929年の国内規則へと取り込まれ、競技の標準語として広がっていきました。
現在の競技ルールで正確に押さえるべき語は「位置について」と「用意」であり、「ドン」はそのあとに鳴る号砲を親しみやすく表した日常語として理解するのが自然です。
そして今では、競技会では英語の合図が使われる場面がある一方で、日本語としての対応関係は日本陸連の資料にも残っており、学校や日常会話では今も強く生きています。
由来を知ると、ただの懐かしい掛け声ではなく、日本のスポーツ文化と競技運営の歴史が重なった言葉だと見えてきます。
