「馬鹿」と「莫迦」は、どちらも「ばか」と読みます。
読み方が同じなら、なぜ異なる漢字が存在するのでしょうか。
「莫迦のほうが古い言葉なのか」「馬鹿は馬と鹿を間違えた人を表すのか」「どちらを使うのが正しいのか」と疑問に思う人も多いでしょう。
結論からいうと、二つの表記に基本的な意味の違いはありません。
ただし、現代での使われ方や、読者が受ける印象には差があります。
さらに、よく知られているサンスクリット語説や、中国の故事に由来するという説も、すべてが確定した事実というわけではありません。
この記事では、辞書、公的機関の調査、文学作品、中国の歴史書などを確認しながら、二つの表記の違いをわかりやすく解説します。
語源に関する有力説と俗説を分け、文章を書くときの実用的な使い分けまで紹介します。
「馬鹿」と「莫迦」の違いを最初に解決
どちらも「ばか」と読み、基本的な意味は同じ
「馬鹿」と「莫迦」は、どちらも「ばか」と読みます。
漢字は異なりますが、基本的な意味に違いはありません。
『デジタル大辞泉』でも「馬鹿」と「莫迦」は一つの言葉として扱われており、知能や判断が愚かであること、社会的な常識に欠けること、つまらないこと、程度が並外れていること、物が正常に機能しないことなどの意味が示されています。
したがって、「馬鹿な考え」と「莫迦な考え」は、辞書上では同じ内容を表します。
「馬鹿にする」と「莫迦にする」についても、相手を軽く見たり、あなどったりするという意味は変わりません。
両者の違いは意味ではなく、主に表記の一般性や、文字から受ける印象にあります。
簡単に整理すると、次のようになります。
| 表記 | 基本的な意味 | 現代の文章での印象 |
|---|---|---|
| 馬鹿 | ばか | 一般的で意味が伝わりやすい |
| 莫迦 | ばか | 古風で文学的に見えやすい |
| ばか | ばか | やわらかく見えやすい |
| バカ | ばか | 強調された印象になりやすい |
ただし、表記を変えれば、言葉そのものの強さが必ず変わるわけではありません。
ひらがなで「ばか」と書いても、相手を見下す文脈で使えば、強い悪口になります。
反対に、「本当にばかだなあ」と親しい相手に言う場合は、関係性や口調によって愛情のある表現として受け取られることもあります。
辞書でも、この言葉は人をののしる用途だけでなく、親しみや思いやりを込めて使われる場合があると説明されています。
つまり、意味を決めるのは漢字だけではありません。
誰が誰に向けて、どのような場面で使ったのかも重要です。
現代では「馬鹿」が一般的に使われている
現代の文章で漢字を使って表す場合は、「莫迦」よりも「馬鹿」のほうが一般的です。
辞書でも「馬鹿」が代表的な表記として掲げられ、「莫迦」は併記される形が多く見られます。
国立国語研究所が1994年発行の雑誌70誌を対象に行った約200万字規模の調査では、「バカ」が16例、「馬鹿」が10例、「ばか」が4例、「莫迦」が1例確認されています。
この数字は特定の年代と雑誌を対象にした調査なので、現在の日本語全体の割合をそのまま示すものではありません。
それでも、「莫迦」がほかの表記に比べて少なかったことは確認できます。
日常的な記事、説明文、ニュース、ウェブサイトなどで「莫迦」をあまり見かけないのは、言葉が間違っているからではありません。
より多くの人が読み慣れている「馬鹿」「ばか」「バカ」が選ばれやすいためです。
特に、読者へ情報をわかりやすく伝える文章では、珍しい表記を使うと内容より漢字のほうに注意が向いてしまうことがあります。
そのため、特別な表現上の狙いがなければ、「馬鹿」か「ばか」を選ぶと自然です。
ただし、「馬鹿」は漢字が目立つため、文脈によっては強く断定しているように見える場合があります。
たとえば、「そんな馬鹿な考えは捨てるべきだ」と書くと、対象を厳しく否定する印象になります。
「そんなばかな考えはやめたほうがよい」とすると、見た目は少しやわらかくなります。
意味そのものは同じでも、文章全体の雰囲気は変わります。
読みやすさを優先するのか、感情の強さを出すのかによって、適した表記を選ぶことが大切です。
「莫迦」は古風で文学的な印象を与えやすい
「莫迦」は現在も使える表記であり、誤字でも廃語でもありません。
ただし、日常的な文章では使用例が少ないため、現代の読者には古風で文学的な表記として受け取られやすくなっています。
近代文学では、芥川龍之介や太宰治などの作品に「莫迦」が繰り返し登場します。
芥川龍之介の『侏儒の言葉』や『河童』では「莫迦げた」「莫迦げてゐる」といった形が使われています。
太宰治の『葉』や『思ひ出』にも、「莫迦にする」「莫迦にしょげてる」といった表記が見られます。
一方で、夏目漱石の『こころ』や『吾輩は猫である』では、「馬鹿」が使われています。
つまり、近代文学だから必ず「莫迦」を使うわけではありません。
同じ時代の作品でも、作者や作品によって表記は異なります。
文章における漢字の選択は、作者の好み、出版社の方針、作品の時代設定、登場人物の話し方などにも左右されます。
現在の小説で「莫迦」を使う場合は、古い時代の空気を出したり、登場人物の知的で気取った性格を表現したり、文章に独特の重みを持たせたりする効果が期待できます。
ただし、頻繁に使うと、読者が読みにくさを感じる可能性もあります。
一般向けの記事で使うなら、最初に「莫迦と書いて、ばかと読む」と説明したほうが親切です。
「莫迦」は意味の違う別の言葉ではなく、文章の雰囲気を変えるために選べる表記の一つと考えるとわかりやすいでしょう。
「莫迦」はどこから生まれた言葉なのか
サンスクリット語の「moha」に由来するという説
「ばか」の語源として広く知られているのが、サンスクリット語に由来するという説です。
サンスクリット語は、古代インドで使われた言語であり、仏教の経典や思想とも深い関わりがあります。
サンスクリット語の「moha」には、意識の混乱、迷い、思い違い、無知、妄想といった意味があります。
サンスクリット語辞典でも「moha」は、混乱や迷妄などを表す言葉として掲載されています。
日本の国語辞典や語源辞典では、この「moha」が漢字で「慕何」などと音写され、それが変化して「ばか」になったという説が紹介されています。
また、「無知」を表すとされる「mahallaka」や、それを漢字で表した「摩訶羅」に関係するとする説もあります。
ただし、サンスクリット語の「moha」と日本語の「ばか」は、発音がそのまま一致しているわけではありません。
「moha」がどのような経路で「ばか」へ変化したのかについては、明確に証明されていません。
日本語の語源研究では、意味が似ているだけでなく、音がどのように変化したのか、いつから使われたのか、古い文献にどのような形で現れるのかも重要になります。
サンスクリット語説は多くの辞書に掲載されていますが、完全に確定した事実ではなく、有力とされてきた説の一つです。
そのため、「ばかはサンスクリット語から生まれた」と断定するより、「サンスクリット語に由来するとする説がある」と表現するほうが正確です。
語源にはまだ説明しきれない部分が残っています。
僧侶の間で使われた言葉とされる理由
サンスクリット語説では、仏教を学んだ僧侶が「ばか」に近い言葉を使い始めたと説明されることがあります。
仏教では、人が物事の本質を理解できず、迷いや執着にとらわれる状態が大きな問題として扱われます。
サンスクリット語の「moha」が表す迷いや無知は、こうした仏教的な考え方と結びつきやすい言葉です。
『日本国語大辞典』に掲載された語源説では、「moha」または「mahallaka」に由来し、僧侶が隠語として使ったとする説明が紹介されています。
隠語とは、特定の集団の中で使われる独特な言葉です。
一般の人には意味が伝わりにくくても、その集団の中では共通の意味を持つ言葉として使われます。
仏教の知識を持つ僧侶たちの間で、迷いや無知を表す言葉が人物への評価に使われ、やがて一般の社会へ広がったという流れは、一つの説明として成り立ちます。
しかし、当時の僧侶が実際にどのような場面で使い、それがどのように庶民へ広がったのかを連続的に示す資料は十分ではありません。
僧侶の隠語だったという説明も、確定した歴史としてではなく、語源説の一部として理解する必要があります。
また、サンスクリット語説を採らない場合は、僧侶の隠語という説明も前提から変わります。
語源を調べるときは、もっともらしく聞こえる物語だけで判断せず、どこまでが資料で確認でき、どこからが推測なのかを分けることが大切です。
「ばか」の語源は完全には確定していない
「ばか」という言葉には、サンスクリット語説以外にも複数の語源説があります。
国立国会図書館のレファレンス協同データベースによると、『日本国語大辞典』には出典とともに八つの説が掲載されています。
代表的なものの一つが、「破家」という漢字に関係する説です。
家財を失うほど愚かな行動をすることから、「破家」が愚かな人物を表すようになり、「ばか」へ変化したと説明されます。
また、「はかない」や「はかなし」と関係するという説もあります。
古語の「はかなし」には、頼りない、取るに足りない、思慮が足りないといった意味があります。
この言葉の語根が強められ、「ばか」になったと考える説です。
さらに、古くから日本で愚かなことを表した「をこ」という言葉と関係するとする説もあります。
柳田国男は、京都で使われた「をこ」に対し、東国の武士などが「ばか」と発音した可能性を考察しています。
このように、言葉の意味、音の変化、使用地域、仏教との関係など、異なる方向から複数の説明が出されています。
しかし、どの説にも決定的な証拠があるわけではありません。
辞書編集に長く携わった神永曉も、サンスクリット語説を含めて検討したうえで、「ばか」は語源がはっきりしない言葉と考えるのが妥当ではないかと述べています。
現時点で最も正確な結論は、語源には複数の説があり、一つに確定していないというものです。
「莫迦」という表記が存在するからといって、サンスクリット語説が自動的に証明されるわけではありません。
表記の歴史と、言葉そのものの起源は、分けて考える必要があります。
なぜ「馬」と「鹿」で「ばか」と読むのか
「馬鹿」は漢字の意味ではなく音を借りた当て字
「馬鹿」は、馬と鹿の性質を組み合わせて作られた言葉ではありません。
辞書では、「馬鹿」は当て字であると説明されています。
当て字とは、もともと存在していた言葉に対し、漢字の意味よりも音を優先して文字を当てる表記方法です。
そのため、「馬鹿」を「馬のようで鹿のような動物」と解釈することはできません。
「馬」と「鹿」の二文字から、愚かさという意味が直接生まれたわけでもありません。
先に「ばか」という音の言葉があり、後から漢字が当てられたと考えるのが基本です。
同じ言葉に「莫迦」「破家」「慕何」などの異なる表記が伝えられていることも、音を漢字で表そうとする試みが一つではなかったことを示しています。
現在は「馬鹿」が定着していますが、最初からこの二文字だけが使われていたわけではありません。
「莫迦」についても、漢字が持つ通常の意味を組み合わせて「ばか」の意味を作ったとは考えにくい表記です。
「莫」には「ない」「なかれ」などの意味があり、「迦」は仏教語の音写に使われることが多い漢字です。
しかし、「莫」と「迦」の意味を組み合わせても、現代語の「ばか」という意味にはなりません。
語源説の違いにかかわらず、「馬鹿」と「莫迦」は、漢字一字ずつの意味を読んで理解する言葉ではないのです。
中国の故事「鹿を指して馬となす」の内容
「馬」と「鹿」の組み合わせを見ると、中国の歴史書『史記』に記された「鹿を指して馬となす」という故事を思い浮かべる人もいるでしょう。
この故事には、秦の時代に権力を握った趙高という人物が登場します。
趙高は二世皇帝に鹿を献上し、それを馬だと言い張りました。
『史記』の原文には、趙高が鹿を差し出して「馬也」と述べたことが記されています。
皇帝は、鹿を馬と呼ぶ趙高を不思議に思い、周囲の家臣たちに意見を求めました。
家臣の中には沈黙する者もいれば、趙高に合わせて馬だと言う者もおり、正直に鹿だと答える者もいました。
趙高は後に、鹿だと答えた人々をひそかに処罰しました。
その結果、家臣たちは趙高を恐れるようになったと記されています。
この話は、単に馬と鹿を見間違えた人物の失敗談ではありません。
権力者が明らかな事実をねじ曲げ、周囲がそれに逆らえるかどうかを試した話です。
現在の「指鹿為馬」という言葉も、間違ったことを権力で押し通すことや、事実を意図的にねじ曲げることを表します。
この故事の内容は、「馬鹿」という二文字の印象と非常によく合います。
馬と鹿の区別がつかない愚かさを連想しやすいため、「ばか」の由来として広く語られるようになりました。
中国の故事を語源とする説が俗説とされる理由
『史記』に鹿を馬と言い張る話があることは事実です。
しかし、その故事から日本語の「ばか」という音が直接生まれたと証明する資料は確認されていません。
『史記』の故事は、権力を使って事実を曲げる行為を描いたものです。
原文の中に、日本語の「ばか」に当たる発音や名称が登場するわけではありません。
そのため、辞書や語源の解説では、この故事を「ばか」という言葉そのものの起源とする説明は、後から作られた俗説と位置づけられることがあります。
『日本大百科全書』の解説でも、「馬鹿」という表記から『史記』の故事と結びつけた俗説が生まれたと説明されています。
辞書編集者の神永曉も、この故事を語源とする説明について、「馬鹿」という当て字から作られた日本の俗説だろうと述べています。
ただし、故事と表記がまったく無関係だったと断定することもできません。
もともと存在した「ばか」という言葉に漢字を当てる際、「鹿を馬と言い張る」という有名な話が「馬鹿」の定着を後押しした可能性は考えられます。
ここでは、言葉の起源と表記が選ばれた理由を分ける必要があります。
「ばか」という音の語源が故事にあるとは証明されていません。
一方で、「馬鹿」という印象的な表記が残った背景に故事が影響した可能性はあります。
ただし、その影響を示す決定的な資料もないため、可能性の範囲を超えて断定することはできません。
「馬鹿」「莫迦」「ばか」「バカ」の使い分け
一般的な文章では「馬鹿」か「ばか」が使いやすい
一般向けの記事や説明文では、「馬鹿」または「ばか」が使いやすい表記です。
「馬鹿」は多くの辞書で代表的な漢字表記として扱われており、読者がすぐに意味を理解できます。
ただし、漢字で書くと文字の形がはっきり見えるため、否定や批判の印象が強くなる場合があります。
人を直接評価するときは、特に注意が必要です。
たとえば、「彼は馬鹿だ」と書けば、相手の人格や能力を強く否定しているように受け取られます。
一方で、「そんなばかな話があるだろうか」のように、人物ではなく話の内容を評価する場合は、日常的な表現として使われています。
ひらがなの「ばか」は、漢字の視覚的な強さを避けたいときに便利です。
子ども向けの文章、会話文、親しみやすいコラムなどでは、ひらがなが文章になじみやすいでしょう。
ただし、ひらがなにすれば失礼ではなくなるわけではありません。
「ばか」「馬鹿」「バカ」は、いずれも相手をののしる言葉として使われる可能性があります。
ビジネス文書、顧客への案内、学校や行政の文章では、人物に対してこの言葉を使うことは基本的に避けたほうが安全です。
「理解が不足している」「判断が適切ではない」「現実的ではない」「不用意だった」など、具体的な問題点を表す言葉に置き換えたほうが、内容が正確に伝わります。
何が問題なのかを説明せず、ただ「ばか」と評価しても、読み手には改善方法がわかりません。
表記を選ぶ前に、その言葉を本当に使う必要があるかを考えることが大切です。
小説や文学作品で「莫迦」が選ばれる効果
小説では、意味だけでなく文字の形や古さも表現の一部になります。
そのため、一般的には珍しい「莫迦」が、あえて選ばれることがあります。
芥川龍之介は『桃太郎』『河童』『蜘蛛の糸』などで「莫迦」を使っています。
太宰治の作品でも、「莫迦にする」「莫迦げた」といった表記が確認できます。
こうした文学作品を読んだ経験がある人は、「莫迦」に近代文学らしい雰囲気を感じることがあります。
現在の小説で使えば、登場人物が古い時代の人であることを示したり、文章に重厚さを加えたりできます。
反対に、現代の若者が交わす日常会話で「莫迦」を多用すると、実際の話し言葉よりも芝居がかった印象になる可能性があります。
「莫迦」は音にすると「ばか」なので、読み上げたときの違いはありません。
違いが表れるのは、文字を目で見たときです。
この性質を利用すれば、語り手と登場人物で表記を変えることもできます。
たとえば、地の文では「莫迦」と書き、くだけた会話では「バカ」と書くことで、文章の層を分けられます。
ただし、作品全体で表記がばらばらになると、読者は意図ではなく誤植だと感じるかもしれません。
作品の時代、登場人物の性格、語り口に合わせ、一定の方針を決めて使うことが大切です。
「珍しい漢字だから格好いい」という理由だけで選ぶのではなく、その表記が作品の空気に合っているかを考えると効果的です。
「バカ」は強調や感情を表しやすいため注意が必要
片仮名の「バカ」は、漫画、広告、会話文、SNSなどでよく使われます。
片仮名は漢字やひらがなと形が異なり、文章の中で目立ちやすい文字です。
そのため、「バカ!」のように書くと、怒鳴り声や強い感情を表現しやすくなります。
国立国語研究所による1994年の雑誌調査では、「バカ」が16例確認され、「馬鹿」「ばか」「莫迦」より多く使われていました。
ただし、この調査結果だけで、あらゆる場面で片仮名が最も一般的だと結論づけることはできません。
文章の種類によって、選ばれる表記は変わります。
漫画や小説の会話では、片仮名にすることで声の勢いや人物の感情を伝えられます。
商品や企画の名前では、「野球バカ」「釣りバカ」のように、一つのことへ夢中になっている人を親しみ込めて表す場合もあります。
この使い方では、知能が低いという意味よりも、常識的な範囲を超えるほど熱中しているという意味が中心になります。
「ばか」には、程度が並外れていることを表す用法があり、「ばか正直」「ばか力」「ばかに大きい」などの形でも使われます。
一方で、人に向けて「バカ」と書けば、視覚的に強く見えるため、攻撃的な印象を与えることがあります。
SNSでは声の調子や表情が伝わらず、冗談のつもりでも悪口として受け取られやすくなります。
親しい関係で使う場合でも、相手が同じように親しみを感じるとは限りません。
片仮名は感情を伝える力があるからこそ、使用する相手と場面を慎重に選ぶ必要があります。
表記に関するよくある疑問
「馬鹿」と「莫迦」はどちらが正しいのか
「馬鹿」と「莫迦」は、どちらか一方だけが正しく、もう一方が間違っているという関係ではありません。
国語辞典では、どちらも「ばか」の表記として掲載されています。
意味も基本的には同じです。
ただし、現代の一般的な文章では「馬鹿」のほうが広く知られています。
そのため、正誤ではなく、文章の目的に合っているかどうかで選ぶのが適切です。
わかりやすさを優先するなら「馬鹿」か「ばか」が向いています。
文学的な雰囲気や古風な印象を出したいなら、「莫迦」を選ぶことができます。
会話の勢いや感情を目立たせたい場合は、「バカ」が使われることがあります。
学校の作文、新聞、書籍、ウェブメディアなどでは、それぞれ独自の表記ルールが決められている場合があります。
執筆先に表記の決まりがあるなら、そのルールを優先します。
また、常用漢字表は、一般の社会生活で現代の国語を書き表す際の漢字使用の目安として定められています。
常用漢字表は、日本語のあらゆる表記について正誤を決める一覧ではありません。
表にない読み方や表記を使っただけで、日本語として直ちに誤りになるわけではありません。
小説や随筆などでは、作者が表現上の目的で表記を選ぶ余地があります。
「どちらが正しいか」よりも、「誰が読む文章で、どのような印象を与えたいか」を基準にすると迷いにくくなります。
「莫迦」は現在では使われない言葉なのか
「莫迦」は、現在まったく使われない言葉ではありません。
国語辞典に掲載されており、意味も読み方も確認できる現役の表記です。
ただし、「馬鹿」「ばか」「バカ」と比べると、日常的に目にする機会は少なくなっています。
国立国語研究所の雑誌調査でも、調査対象の中で「莫迦」は1例でした。
古い文学作品では比較的見つけやすく、芥川龍之介や太宰治の作品にも複数の使用例があります。
そのため、現代の読者が「莫迦」を見ると、昔の作品で使われていた漢字という印象を持ちやすいのです。
ただし、「古風に見えること」と「使ってはいけないこと」は別です。
歴史小説、時代を意識した作品、文学的なエッセイなどでは、現在でも効果的に使えます。
一方で、商品の説明、手続きの案内、初心者向けの記事などでは、読者が一度で読めない可能性があります。
「莫迦」を「ばか」と読めない人もいるため、わかりやすさが求められる文章には向かない場合があります。
初めて使う箇所で振り仮名を付ける方法もあります。
ただし、特別な必要がないなら、読み慣れた「馬鹿」や「ばか」を選ぶほうが文章の内容に集中してもらえます。
「莫迦」は消えた表記ではなく、使われる場面が限られるようになった表記と考えるのが適切です。
文章で表記に迷ったときの選び方
表記に迷ったときは、意味の正しさだけでなく、文章の目的と読者を考えます。
一般向けの記事で違いを説明するときは、最初に「馬鹿」と「莫迦」を併記し、その後は「馬鹿」または「ばか」に統一すると読みやすくなります。
小説では、時代設定や登場人物の性格に合う表記を選びます。
古風で硬い語り口なら「莫迦」がなじみやすく、現代的な会話なら「ばか」や「バカ」が自然です。
子ども向けの文章では、難しい漢字を避けて「ばか」と書く方法があります。
ただし、子ども同士の悪口を助長しないよう、使用場面や言葉の影響まで説明することが大切です。
ビジネス文書や公的な文章では、人物を「ばか」と評価する表現は避けます。
「検討が不十分」「事実と異なる」「合理的ではない」「目的に合っていない」など、問題を具体的に示す言葉へ置き換えます。
SNSやメッセージでは、ひらがなで書いても相手を傷つける可能性があります。
文章だけのやり取りでは冗談が伝わらないこともあるため、相手への直接的な使用は慎重に判断します。
迷ったときの目安は、次のとおりです。
| 文章の種類 | 選びやすい表記 |
|---|---|
| 一般向けの解説 | 馬鹿、ばか |
| やわらかい会話文 | ばか |
| 感情の強い会話文 | バカ |
| 古風な小説や随筆 | 莫迦 |
| ビジネス文書 | 原則として別の具体的な表現に置き換える |
表記の違いは、正解を競うためのものではありません。
同じ意味の言葉でも、文字を変えることで文章の温度や時代感が変わります。
読み手にどのように届くかを考え、目的に合う表記を選ぶことが最も重要です。
「馬鹿」と「莫迦」の違いまとめ
「馬鹿」と「莫迦」は、どちらも「ばか」と読み、辞書上の基本的な意味に違いはありません。
現代では「馬鹿」が一般的で、「莫迦」は古風で文学的な印象を与えやすい表記です。
「馬鹿」は当て字であり、馬と鹿の意味を組み合わせて作られた言葉ではありません。
語源については、サンスクリット語の「moha」や「mahallaka」に由来する説、僧侶の隠語だったとする説、「破家」「はかなし」「をこ」などに関係する説があります。
しかし、どの説も決定的に証明されておらず、語源は一つに確定していません。
中国の『史記』に、趙高が鹿を馬と言い張った故事が記されていることは事実です。
ただし、この故事から日本語の「ばか」という音が生まれたとする説明は、一般に俗説として扱われています。
日常的な文章では「馬鹿」か「ばか」が使いやすく、小説で古風な雰囲気を出したい場合は「莫迦」、強い感情を見せたい会話では「バカ」が選ばれることがあります。
どの表記を選んでも基本的な意味は変わりません。
大切なのは、文章の目的、読者、場面に合う文字を選ぶことです。
また、この言葉は人を傷つける悪口になる場合があります。
表記の違いだけでやわらかくなったと考えず、相手との関係や文脈まで含めて使い方を判断しましょう。
- 「馬鹿」の意味・読み・例文・類語|コトバンク
- 「ばか」の意味・使い方|コトバンク
- 『現代雑誌の表記 1994年発行70誌』|国立国語研究所
- 「馬鹿」という言葉の語源が知りたい。「馬鹿」という漢字は当て字なのか。|レファレンス協同データベース
- 第417回 何でバカって言うの?|日本語、どうでしょう?
- A Sanskrit-English Dictionary|Monier Monier-Williams
- 『史記』秦始皇本紀|中國哲學書電子化計劃
- 常用漢字表(平成22年内閣告示第2号)|文化庁
- 『侏儒の言葉』芥川龍之介|青空文庫
- 『河童』芥川龍之介|青空文庫
- 『葉』太宰治|青空文庫
- 『思ひ出』太宰治|青空文庫
- 『こころ』夏目漱石|青空文庫
