骨折したときに腕や足へ巻く固定具を、「ギブス」と呼んでいる人もいれば、「ギプス」と呼んでいる人もいます。
たった一文字の違いですが、学校の作文や仕事の文章を書くときには、どちらを使うべきか迷ってしまうかもしれません。
結論からいうと、標準的な表記は「ギプス」です。
ただし、「ギブス」も日常会話で広く使われているため、意味の異なる言葉というわけではありません。
この記事では、両者の違い、言葉の由来、医療現場での使われ方に加え、キャスト、シーネ、シャーレとの違いまで分かりやすく解説します。
「ギブス」と「ギプス」の違いを30秒で確認
正しい表記は「ギプス」
骨折した腕や足を固定するものについて書く場合、標準的な表記は「ギプス」です。
デジタル大辞泉では、ドイツ語の「Gips」に由来する言葉として「ギプス」が掲載されており、「ギブス」はなまった形と説明されています。
精選版日本国語大辞典でも、本来の発音は「ギプス」であり、「ギブス」と言う場合も多いとされています。
日本整形外傷学会の一般向け解説でも、「ギプス包帯」「ギプスシーネ」「ギプスシャーレ」のように、一貫して「ギプス」と表記されています。
そのため、会話ではどちらの言い方を耳にしても、文章を書くときは「ギプス」を選ぶのが適切です。
「ギブス」と「ギプス」が指すものは基本的に同じ
日常会話で使われる「ギブス」と、標準的な表記である「ギプス」は、一般には同じものを指しています。
どちらも、骨折やけがをした部分が動かないように外側から固定するものを意味します。
たとえば、「腕にギブスを巻いた」と言う人と、「腕にギプスを巻いた」と言う人がいても、会話の内容が大きく変わるわけではありません。
ただし、言葉として同じものを指しているからといって、文章上の扱いまで同じとは限りません。
辞書では「ギブス」から「ギプス」へ参照する形が採用されているため、正式な文章、学校の課題、医療に関する記事では「ギプス」と書くのが無難です。
「ギブス」はなまって広まった呼び方
「ギブス」は、骨折を固定する道具をまったく別の名前で呼んでいるわけではありません。
「ギプス」という言葉の一部が変化し、日常的な発音として広まった形です。
デジタル大辞泉は「なまって『ギブス』とも」と説明し、精選版日本国語大辞典も「ギブス」という言い方が多く見られることを記録しています。
そのため、会話で「ギブス」と言った人に対して、意味がまったく通じない誤りだと考える必要はありません。
一方で、校正や学校教育のように標準的な表記が求められる場面では、「ギプス」へ直される可能性があります。
話し言葉として通じることと、文章で推奨されることは分けて考えると理解しやすいでしょう。
病院や公的な文章では「ギプス」を使う
病院での説明書、医学論文、学会の資料などでは、基本的に「ギプス」が使われます。
日本整形外傷学会は、患部の周囲に巻いて固定する方法を「ギプス包帯法」、添え木のように当てる方法を「ギプス副子法」と表記しています。
学術論文でも「ギプス固定」「ギプス包帯固定」といった表現が一般的です。
病院で患者が「ギブス」と言ったからといって、診察に支障が出るとは通常考えにくいでしょう。
ただし、医療機関が作る文書や医療情報の記事では、専門用語として定着している「ギプス」を使うのが適切です。
迷ったときに覚えておきたい結論
覚えておくべき結論は、とてもシンプルです。
文章に書くときは「ギプス」を使い、会話で「ギブス」と聞いたときは同じものを指していると考えましょう。
「ギブス」と言っても意味は通じますが、辞書や医療分野で採用されている標準的な形は「ギプス」です。
覚え方に迷う場合は、もとになったドイツ語が「Gips」であり、中央の子音が「p」であることを意識すると区別しやすくなります。
学校のテスト、作文、仕事の資料、ウェブ記事などでは、「ギプス」と書けば問題ありません。
「ギプス」の意味と語源
「ギプス」はもともと石膏を意味する言葉
現在の日本では、「ギプス」と聞くと骨折した腕や足を包む固定具を思い浮かべる人が多いでしょう。
しかし、もともとの意味は固定具ではなく「石膏」です。
ドイツ語辞典のDudenでは、「Gips」は鉱物としての石膏や、加熱して作られ、水を加えると再び固まる粉末状の材料として説明されています。
日本整形外傷学会も、ギプスはもともと石膏、つまり硫酸カルシウムの粉末を意味すると解説しています。
水を含ませると硬くなる性質が、骨折した部分を固定する材料に適していたため、医療で広く使われるようになりました。
語源はドイツ語の「Gips」
日本整形外傷学会は、「ギプス」をドイツ語の「Gips」に由来する言葉として説明しています。
デジタル大辞泉もドイツ語由来としており、日本で一般的に行われる語源説明では「ドイツ語のGips」が基本です。
一方、精選版日本国語大辞典は、ドイツ語の「Gips」に加えて、オランダ語の「gips」も示しています。
日本の西洋医学は、江戸時代にはオランダ語、明治以降はドイツ語から大きな影響を受けたため、両方の言語との関係が辞書に記録されていると理解できます。
現在の医療用語として由来を簡潔に説明するときは、「ドイツ語のGipsから来た言葉」とするのが分かりやすいでしょう。
日本の医療にドイツ語が多く残っている理由
日本では江戸時代にオランダ医学が学ばれ、明治時代に入るとドイツ医学が本格的に導入されました。
国立国会図書館によると、大学東校のちの東京大学医学部がドイツを手本としたこともあり、医学分野でドイツ語を学ぶ必要性が高まりました。
日本医学会の用語委員会でも、日本の医学用語は江戸時代のオランダ語翻訳から始まり、明治から昭和初期にかけてドイツ語から多く翻訳されたという歴史が説明されています。
「ギプス」だけでなく、「カルテ」や「ガーゼ」など、医療の場で定着した外来語にはドイツ語に関係するものがあります。
現在は英語が使われる場面も増えていますが、過去に定着した言葉の一部は、今も日本語の医療用語として残っています。
なぜ固定具そのものをギプスと呼ぶようになった?
厳密には、体を固定するものは「ギプス包帯」です。
ところが、日常会話では後半の「包帯」が省かれ、「ギプス」だけで固定具を表すようになりました。
デジタル大辞泉も、「ギプス」には石膏という意味と、「ギプス包帯」の略という意味があると説明しています。
ドイツ語でも、石膏製の固定包帯は「Gipsverband」と呼ばれ、「Gips」が短い形として使われることがあります。
材料の名前が、その材料を使った完成品の名前としても使われるようになったわけです。
現在は石膏以外の素材も使われていますが、「ギプス」という呼び名はそのまま残っています。
英語では「cast(キャスト)」と呼ばれる
英語では、骨折した部分などを硬い材料で囲んで固定するものを「cast」と呼びます。
米国整形外科学会の一般向け情報でも、石膏やグラスファイバーで作られた固定具を「cast」と表記しています。
日本の医療現場でも、「キャスト固定」「キャスト材」といった言い方が使われることがあります。
ただし、日本語では「ギプス」のほうが一般の人に伝わりやすく、英語圏では「cast」のほうが自然です。
海外で受診するときに「ギプス」を英語らしく発音しても伝わらない可能性があるため、「cast」という単語を覚えておくと役立ちます。
なぜ「ギブス」という呼び方が広まったのか
「プ」と「ブ」の発音が混同された可能性
「ギプス」が「ギブス」に変化した詳しい過程を、ひとつの原因だけで断定することはできません。
確認できる事実は、複数の国語辞典が「ギブス」を「ギプス」のなまった形や誤った発音として記録していることです。
「プ」と「ブ」は、どちらも唇を使って発音する音で、片方は濁らず、もう片方は濁って発音されます。
会話の中で言葉が受け継がれるうちに音が変化し、「ギブス」という形も使われるようになったと考えるのが自然です。
ただし、「日本人にはプが発音できなかったから」といった単純な説明には、十分な根拠がありません。
語源を説明するときは、辞書の記述に合わせて「なまってギブスとも言う」とするのが正確です。
日常会話では「ギブス」と発音する人も多い
「ギブス」という言い方は、辞書に記録されるほど広く使われてきました。
精選版日本国語大辞典には、本来は「ギプス」が正しい発音であるものの、「ギブス」と言う場合も多いと記載されています。
このため、「ギブス」と言う人が珍しいわけではありません。
家族や友人との会話で使ったとしても、骨折した部分を固定するものだと理解されることがほとんどでしょう。
ただし、使われることが多い表現と、標準的な表記は同じではありません。
話すときに「ギブス」と言う習慣があっても、文章では「ギプス」に切り替えるとよいでしょう。
辞書では「ギブス」をどのように扱っている?
辞書によって説明の表現には多少の違いがありますが、中心となる項目は「ギプス」です。
デジタル大辞泉は「ギプス」の説明中に、なまって「ギブス」とも言うと記載しています。
同辞典で「ギブス」を調べると、「ギプス」を参照するよう案内されます。
精選版日本国語大辞典も、本来の発音を「ギプス」としています。
つまり、辞書は「ギブス」という形が実際に使われていることを認めながらも、基本となる形は「ギプス」と整理しています。
文章を書く際は、この辞書上の扱いに従うのが分かりやすい選択です。
変換候補に「ギブス」が出てくるのはなぜ?
パソコンやスマートフォンで「ぎぶす」と入力すると、「ギブス」と変換できる場合があります。
しかし、変換できることは、その表記が標準的であることを保証するものではありません。
日本語入力システムには、人名、商品名、話し言葉、表記の揺れなど、幅広い語句が登録されています。
辞書でも「ギブス」という言い方の存在自体は認められているため、変換候補に表示されても不思議ではありません。
変換候補は入力を助ける機能であり、文章の正しさを判定する機能ではないと考えましょう。
迷ったときは変換候補だけで判断せず、国語辞典や専門機関の表記を確認することが大切です。
人名や作品名の「ギブス」と混同しないための注意点
「ギブス」というカタカナは、医療用の固定具以外を表すことがあります。
たとえば、米国の科学者ジョサイア・ウィラード・ギブスの姓は「Gibbs」とつづり、日本語では「ギブス」と表記されます。
物理学や化学で使われる「ギブス自由エネルギー」の「ギブス」も、この人名に由来します。
この場合は「ギプス」に直してはいけません。
また、歌、映画、小説などの作品名に「ギブス」が使われている場合も、正式名称を勝手に変更することはできません。
医療用の固定具は「ギプス」、人名のGibbsや固有名詞は「ギブス」と覚えると区別しやすくなります。
病院で使われるギプスと関連する言葉の違い
正式には「ギプス包帯」と呼ばれる
普段「ギプス」と呼んでいるものは、「ギプス包帯」を短くした言い方です。
日本整形外傷学会は、包帯状の繊維に石膏やプラスチックの原料が付着した材料を水に浸し、体に巻いて硬化させる方法を「ギプス包帯法」と説明しています。
体の周囲を包むように巻くため、患部をしっかり固定できることが特徴です。
一方で、けがをした直後は腫れが強くなることがあり、全周を硬い材料で囲むと圧迫が問題になる場合があります。
固定後に痛みが強くなる、指先が冷たい、皮膚の色が白や紫になる、しびれるといった変化がある場合は、早急な診察が必要です。
ギプスとキャストは何が違う?
日本語の「ギプス」と英語の「cast」は、骨や関節を硬い材料で固定するものという点で、ほぼ同じ対象を表します。
米国整形外科学会では、石膏またはグラスファイバーを使い、けがをした手足の形に合わせて作る固定具を「cast」と呼んでいます。
日本でも、合成樹脂製の固定材や固定方法を「キャスト」と呼ぶことがあります。
ただし、施設や製品によって用語の使い方が異なることもあり、「キャストは必ずプラスチック製」「ギプスは必ず石膏製」と単純に分けることはできません。
現在の「ギプス」は、素材に関係なく、患部を囲んで固定するもの全体を指す場合があります。
患者として説明を受けるときは、名前だけで判断せず、素材、固定範囲、取り外せるかどうかを確認すると安心です。
ギプスとシーネの違い
ギプス包帯は、基本的に患部の周囲を囲むように巻いて固定します。
一方のシーネは、硬い材料を患部の一部に添え、包帯などで留める固定方法です。
日本整形外傷学会は、ギプス包帯を必要な幅と長さに重ねて患部に当て、硬化させたものを「ギプスシーネ」と説明しています。
英語の「splint」も、硬い部分が患部の全周を囲まないため、全周性のcastより腫れに対応しやすいとされています。
この特徴から、けがをした直後で腫れの変化が予想される時期に、シーネが選ばれることがあります。
ただし、固定方法は骨折の場所や状態によって決まるため、患者が自分で選んだり外したりするものではありません。
ギプスとシャーレの違い
ギプスシャーレは、いったん患部の周囲に巻いて硬化させたギプスを、半分に切って作る固定具です。
日本整形外傷学会は、全周性に巻いたギプス包帯を硬化後に半分に切ったものを「ギプスシャーレ」と説明しています。
ギプスシーネが、材料を板のように重ねて患部へ当てるのに対し、シャーレは体の形に沿って固まったギプスを利用する点が異なります。
どちらも患部の全周を硬い材料で完全に囲まず、包帯などを使って固定します。
医療機関によっては、シーネ、シャーレ、副子という言葉が、やや広い意味で使われることもあります。
名前だけでは形が分かりにくい場合は、医師や看護師に「全周を固定しているのか」「自分で外してよいのか」を確認しましょう。
サポーターや装具との違い
サポーターや装具も体を支えるために使われますが、ギプスとまったく同じものではありません。
ギプスは、水などで硬化する材料を体の形に合わせて成形し、患部の動きを強く制限する固定方法です。
装具は、金属、プラスチック、布、ベルトなどを組み合わせて作られ、体を支えたり、動く方向を調整したりする目的で使われます。
日本整形外傷学会は、外固定の方法としてギプス包帯法、ギプス副子法、装具療法を分けて説明しています。
装具には、首に巻く頚椎カラー、腰を支えるコルセット、膝装具、短下肢装具などがあります。
市販のサポーターで骨折を自己判断して治療することはできないため、強い痛みや腫れ、変形がある場合は医療機関を受診する必要があります。
「ギブス」と「ギプス」に関するよくある疑問
学校のテストや作文ではどちらを書くべき?
学校のテストや作文では、「ギプス」と書きましょう。
国語辞典で中心となる項目は「ギプス」であり、「ギブス」はなまった形として扱われています。
テストの採点基準は問題によって異なりますが、「ギブス」を不正解または表記ミスと判断される可能性があります。
作文やレポートでも、特別な理由がない限り「ギプス」を選ぶのが適切です。
ただし、小説の会話文で登場人物の話し方を表現する場合や、固有名詞をそのまま書く場合は、「ギブス」が意図的に使われることもあります。
通常の説明文では「骨折して腕にギプスを巻いた」と書けば問題ありません。
病院で「ギブス」と言っても通じる?
病院で「ギブス」と言っても、医師や看護師には意図が伝わると考えられます。
「ギブス」が「ギプス」のなまった形として広く使われていることは、国語辞典にも記録されています。
言い間違いを気にして、症状や困りごとの説明をためらう必要はありません。
それよりも、痛みが強くなった、しびれる、指先が冷たい、固定具が壊れたといった変化を正確に伝えることのほうが重要です。
医療機関から渡される説明書や診療に関する文書では、「ギプス」と書かれているのが一般的です。
会話では意味が通じますが、自分で記録を書く場合は「ギプス」を使うとよいでしょう。
骨折したら必ずギプスを巻くの?
骨折したからといって、すべての人が必ずギプスを巻くわけではありません。
骨折の場所、骨のずれ、関節の安定性、年齢、腫れの程度などによって、治療方法は変わります。
日本整形外傷学会は、骨折の外固定法として、ギプス包帯、シーネ、装具など複数の方法を紹介しています。
ずれの少ない骨折ではギプスや装具による治療が選ばれることがありますが、ずれが大きく不安定な骨折では手術が必要になる場合があります。
反対に、疲労骨折の中には、通常はギプス固定をせず、原因となった運動を休むことを中心に治療するものもあります。
骨折のように見えても打撲や脱臼の可能性があるため、自己判断で固定するのではなく、必要に応じてX線検査などを受けることが大切です。
現在のギプスも石膏で作られている?
現在も石膏製のギプスは使われていますが、すべてが石膏で作られているわけではありません。
日本整形外傷学会によると、近年は扱いやすいプラスチック製のギプスも多く使われています。
米国整形外科学会も、castやsplintの硬い層には、石膏またはグラスファイバーが使われると説明しています。
グラスファイバーは石膏より軽くて強く、X線が通りやすいという特徴があります。
一方、石膏は体の形に合わせやすく、用途によっては現在も選ばれます。
材料がプラスチック製でも、患部を硬く固定するものを日本語で「ギプス」と呼ぶことがあるため、名前と素材が必ず一致するわけではありません。
「ギブス」と「ギプス」の違いを一言で説明すると?
一言で説明するなら、「意味はほぼ同じだが、標準的な表記はギプス」です。
「ギプス」は、もともと石膏を意味するドイツ語の「Gips」に由来します。
「ギブス」は、その「ギプス」がなまった形として使われるようになった呼び方です。
会話でどちらを使っても意味は通じますが、学校、仕事、医療、ウェブ記事などの文章では「ギプス」を使いましょう。
ただし、人名のGibbsや正式な作品名に使われている「ギブス」は、医療用語とは別なので書き換えません。
「ギブス」と「ギプス」の違いまとめ
骨折した腕や足を固定するものについて、標準的な表記は「ギプス」です。
「ギブス」は別の医療器具ではなく、「ギプス」がなまって使われるようになった呼び方です。
国語辞典では「ギプス」が中心となる項目に採用され、「ギブス」はなまった形や参照語として扱われています。
「ギプス」の語源は石膏を意味するドイツ語の「Gips」で、正式には「ギプス包帯」と呼ばれます。
現在は石膏だけでなく、グラスファイバーなどの合成素材も使われています。
また、患部の全周を囲むギプス、板状の材料を当てるシーネ、硬化後のギプスを半分に切るシャーレ、体を支える装具では、形や固定方法が異なります。
迷ったときは、「会話ではギブスでも通じるが、文章ではギプス」と覚えておけば安心です。
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