会社の設立手続きを調べていると「定款」という言葉を目にし、保険や銀行、Webサービスを利用していると「約款」という言葉を目にします。
読み方も見た目も似ていますが、この二つは目的も対象となる人も異なる文書です。
定款は会社や法人を運営するための基本的なルールであり、約款は多数の利用者との取引に使う共通の契約条件です。
違いを理解しないまま文書を作成すると、必要な手続きが抜けたり、契約条件が相手に適用されなかったりする可能性があります。
この記事では、定款と約款の違いを比較表で整理し、契約書、利用規約、社内規程との違いも分かりやすく解説します。
初めて会社を設立する人や、サービスの利用規約を作成する担当者にも理解できるよう、法律上のルールと身近な例を交えて紹介します。
定款と約款の違いを比較表でわかりやすく解説
定款は会社や法人を運営するための基本ルール
定款(ていかん)とは、会社や法人の目的、名称、所在地、意思決定の方法など、組織を運営するうえで基本となる事項を定めた文書です。
株式会社を設立する場合、発起人は定款を作成し、署名または記名押印しなければなりません。
電磁的記録で作成する電子定款も認められています。
株式会社の定款には、目的、商号、本店の所在地、設立時に出資される財産の価額または最低額、発起人の氏名または名称と住所を記載する必要があります。
たとえば、「飲食店を運営する会社なのか」「インターネットサービスを提供する会社なのか」といった事業目的は、定款に記載されます。
株式の譲渡を会社の承認制にするか、取締役会を置くか、事業年度をいつからいつまでにするかといった事項も、会社の形に応じて定められます。
つまり、定款は顧客との取引条件を示す文書ではありません。
会社や法人が、どのような目的と仕組みで活動するのかを定める文書です。
約款は多数の利用者に共通して適用する契約条件
約款(やっかん)とは、事業者が多数の利用者と同じ種類の取引を行うために、あらかじめ準備する共通の契約条件です。
銀行口座の利用条件、保険契約の補償範囲、鉄道やバスの運送条件、通信サービスの料金や解約条件などが代表例です。
利用者ごとに契約内容を一から交渉すると、契約の締結に多くの時間と手間がかかります。
そこで、同じサービスを利用する人に共通する条件をまとめて示すために、約款が使われます。
民法では、一定の条件を満たす取引を「定型取引」、その契約内容として準備された条項のまとまりを「定型約款」と定めています。
定型取引とは、特定の事業者が不特定多数の人を相手に行う取引のうち、契約内容の全部または一部を共通にすることが双方にとって合理的な取引です。
ただし、一般に約款と呼ばれている文書が、すべて民法上の定型約款に当たるとは限りません。
取引の相手、契約内容、画一的に扱う必要性などを確認し、民法の要件を満たすかを判断する必要があります。
目的・対象者・効力・変更方法の違いを一覧で比較
定款と約款の違いを整理すると、次のようになります。
| 比較する点 | 定款 | 約款 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 会社や法人の組織、目的、運営方法を定める | 多数の相手との共通の契約条件を定める |
| 主な対象 | 会社、株主、役員など | 商品やサービスを利用する契約相手 |
| 作成する人 | 発起人や法人の設立者 | 商品やサービスを提供する事業者 |
| 主な内容 | 目的、名称、所在地、機関設計、株式、事業年度など | 料金、提供条件、禁止事項、解約、責任範囲など |
| 効力が問題になる場面 | 会社の設立、運営、意思決定 | 顧客や利用者との契約 |
| 主な変更方法 | 法律や定款で定められた組織内の決議 | 相手方との合意、または定型約款の変更要件を満たす手続き |
| 公証人の認証 | 株式会社の設立時定款では必要 | 通常は不要 |
| 身近な例 | 株式会社の事業目的や株主総会のルール | 保険約款、運送約款、サービス利用条件 |
株式会社の設立時に作成する定款は、公証人の認証を受けなければ効力を生じません。
一方、合同会社の設立時定款には、公証人による認証は求められていません。
「会社を設立するなら、どの形態でも必ず定款認証が必要」と考えないように注意しましょう。
約款についても、文書を作成しただけで、すべての内容が当然に契約相手へ適用されるわけではありません。
契約内容に組み入れるための合意や表示が必要であり、不当な条項が含まれていないかも問題になります。
「組織のルール」と「取引のルール」で考えると分かりやすい
両者を区別するときは、「誰との関係を決める文書なのか」に注目すると理解しやすくなります。
定款は、会社や法人という組織の内側を整えるルールです。
会社の目的、意思決定の仕組み、役員の構成、株式の扱いなどを定めます。
約款は、商品やサービスを提供する側と利用する側との取引を整えるルールです。
料金の支払方法、利用できる範囲、契約期間、解約方法、損害が生じた場合の取り扱いなどを定めます。
定款があるからといって、顧客との契約条件がすべて決まるわけではありません。
反対に、約款があっても、会社の株主総会や役員選任の方法が決まるわけではありません。
迷ったときは、会社そのものの仕組みを決める文書なら定款、顧客との取引条件を決める文書なら約款と考えると、大きく間違えにくくなります。
定款とは?役割と記載される内容
定款が「会社の憲法」と呼ばれる理由
定款は、会社や法人の活動の土台になる文書です。
日常的に「会社の憲法」と表現されることがありますが、これは日本国憲法と同じ効力を持つという意味ではありません。
組織の目的や基本的な運営方法を定める重要な文書であることを、分かりやすく表した呼び方です。
株式会社は、定款で定めた目的に沿って事業を行います。
取締役会を設置するか、株式の譲渡に会社の承認を必要とするかなど、会社の設計に関わる事項にも定款が関係します。
定款の内容に反する意思決定を行った場合、その決定の効力が争われることがあります。
ただし、定款に書けば、どのような内容でも有効になるわけではありません。
会社法第29条は、法律の規定に違反しない事項であれば、定款に記載または記録できるとしています。
法律で認められていない方法で株主の権利を奪うなど、強行的な法令に反する内容を定めても、そのまま有効になるとは限りません。
定款は自由に設計できる部分がある一方、会社法の枠内で作成する必要があります。
定款に記載される主な内容
株式会社の定款に必ず記載しなければならない事項は、会社法第27条に定められています。
具体的には、目的、商号、本店の所在地、設立に際して出資される財産の価額または最低額、発起人の氏名または名称と住所です。
これらが欠けていると、株式会社の設立に必要な定款として成立しない可能性があります。
このほか、法律上、定款に記載しなければ効力が生じない事項があります。
現物出資をする人の氏名、現物出資する財産、その価額、設立時に譲り受ける財産、発起人が受ける特別な利益などが該当します。
また、会社の状況に応じて任意に定める事項もあります。
事業年度、取締役の人数、役員の任期、株主総会の招集方法、公告方法などが例です。
ただし、任意に定められるからといって、将来の運営を考えずに細かく書き込むのは適切とは限りません。
定款に細かな条件を書きすぎると、事業内容や組織体制を変えるたびに、定款変更の手続きが必要になる可能性があります。
現在の事業だけでなく、数年後に行う可能性がある事業や、将来の株主構成も考えて設計することが大切です。
定款は誰が作成し、誰に適用されるのか
株式会社を設立するときは、発起人が定款を作成します。
発起人とは、会社の設立を企画し、設立時の手続きを進める人です。
会社法第26条では、発起人が定款を作成し、全員が署名または記名押印することを求めています。
会社が成立した後は、定款が会社の組織や運営に関する判断の基準になります。
主に会社、株主、取締役などの機関や関係者に影響します。
ただし、定款は、従業員との労働条件や顧客との取引条件をすべて決める文書ではありません。
従業員の労働条件は雇用契約書や就業規則、顧客との条件は契約書や約款などで定めるのが一般的です。
会社を設立するときは、「定款を作れば必要なルールがすべて完成する」と考えないことが重要です。
実際の事業運営では、株主間契約、取締役会規程、就業規則、個別の契約書、利用規約、プライバシーポリシーなど、目的の異なる文書が必要になります。
それぞれの文書が何を決めるものなのかを整理し、矛盾が生じないように作成する必要があります。
定款を変更するときに必要な手続き
株式会社は、成立後に株主総会の決議によって定款を変更できます。
会社法第466条に、その基本的なルールが定められています。
商号、事業目的、本店所在地、株式に関する事項などを変更するときは、定款変更が必要になる場合があります。
定款変更は、代表取締役が自分の判断だけで自由に行えるものではありません。
株式会社では、変更内容に応じて株主総会の決議が必要になり、原則として会社法上の特別決議が求められます。
さらに、変更した内容が登記事項に当たる場合は、法務局で変更登記を行う必要があります。
たとえば、商号や目的、本店所在地の登記内容に変更があれば、定款を直すだけでは手続きが完了しません。
株主総会議事録の作成や変更登記まで含めて対応する必要があります。
一方、定款に書かれていても登記事項ではない内容もあります。
どの手続きが必要になるかは、変更する項目によって異なります。
事業目的や株式、機関設計に関する変更は、会社の権利関係に大きく影響する可能性があるため、変更前に専門家へ確認するのが安全です。
約款とは?身近な具体例と法的な効力
約款が多数の利用者との取引で使われる理由
約款は、多くの人に同じ商品やサービスを提供するときに役立ちます。
電車に乗るたびに、運賃、払い戻し、乗車方法、運休時の対応を利用者と個別交渉していては、公共交通を円滑に運営できません。
保険契約でも、補償の対象、保険金が支払われない場合、告知義務、解約手続きなどを契約者ごとに一から決めると、契約内容が複雑になります。
共通の条件をあらかじめ用意することで、事業者は同じ基準でサービスを提供しやすくなり、利用者も契約条件を確認しやすくなります。
ただし、契約を効率化できることと、事業者が好きな条件を一方的に押し付けられることは別の問題です。
民法は、定型約款を契約内容に組み入れるための条件、不当な条項の扱い、内容を表示する義務、変更できる条件を定めています。
消費者と事業者との契約では、消費者契約法も適用される可能性があります。
事業者の責任を不当に免除する条項や、消費者の利益を一方的に害する条項は、法律の要件により無効になる場合があります。
保険・銀行・交通機関・Webサービスで使われる約款
約款は、私たちの生活のさまざまな場面で使われています。
保険では、保険金が支払われる事故、補償されない事故、保険料の支払い、契約解除などが定められます。
銀行では、預金口座の利用方法、キャッシュカードの管理、振込、手数料、口座の解約などが定められます。
鉄道やバスでは、乗車券の使用条件、運賃、払い戻し、不正乗車、手荷物などのルールが定められます。
電気、ガス、通信、宿泊、宅配便などでも、多数の利用者へ共通の条件を適用するために約款が利用されています。
Webサービスでは、「利用規約」「サービス規約」「会員規約」などの名称が使われることが多くあります。
名称に「約款」と書かれていなくても、その内容や取引の性質によっては、民法上の定型約款に当たる可能性があります。
反対に、「約款」という名称を付ければ、自動的に民法上の定型約款になるわけでもありません。
判断するときは、名称ではなく、不特定多数を相手とする取引か、契約内容を共通にすることが合理的か、契約内容として準備された条項のまとまりかを確認します。
一般的な約款と民法上の定型約款の関係
約款という言葉は、民法に定型約款の規定が設けられる前から、実務で広く使われていました。
民法が定めているのは、約款と呼ばれる文書すべてに共通する一律のルールではありません。
一定の条件を満たす「定型取引」と、そのために準備された「定型約款」に関するルールです。
定型取引に当たるには、特定の事業者が不特定多数の相手と取引し、契約内容の全部または一部を共通にすることが双方にとって合理的である必要があります。
たとえば、一般消費者向けの交通、通信、保険などは、定型取引に該当しやすいと考えられます。
一方、企業間で重要な契約条件を個別交渉する取引では、ひな形を使っていても、当然に定型取引へ当てはまるとは限りません。
契約金額、責任範囲、納期、成果物などを相手ごとに細かく交渉する場合、契約内容を画一的にすることが双方にとって合理的かを慎重に判断する必要があります。
事業者は、自社の文書を単に「定型約款です」と宣言するだけでは不十分です。
実際の取引方法と民法の要件が一致していることが必要です。
読んでいない約款にも同意したことになるのか
長い約款をすべて読まずに、サービスの申込みボタンを押した経験がある人は多いでしょう。
しかし、「読んでいない」という理由だけで、約款が必ず無効になるわけではありません。
民法第548条の2では、定型取引を行うことに合意したうえで、定型約款を契約内容とすることに合意した場合、または事業者が事前に定型約款を契約内容とする旨を相手に表示していた場合、個別の条項についても合意したものとみなすと定めています。
そのため、申込み画面に利用規約へのリンクが示され、「利用規約に同意して申し込む」と分かる形になっていれば、実際に全文を読んでいなくても契約内容に組み入れられる可能性があります。
ただし、単にWebサイトの目立たない場所へ掲載していただけで、常に十分とは限りません。
また、相手方の権利を制限したり、義務を重くしたりする条項のうち、取引の実情や社会通念に照らして相手方の利益を一方的に害するものは、合意しなかったものとみなされます。
定型約款を準備した事業者は、契約の前または契約後の相当な期間内に相手から請求された場合、遅滞なく相当な方法で内容を示さなければなりません。
契約前の請求を拒否した場合には、定型約款を契約内容とするための規定が適用されないことがあります。
利用者側は「読んでいないから関係ない」と考えず、料金、解約、違約金、自動更新、損害賠償など、重要な条件を申込み前に確認することが大切です。
定款・約款・契約書・利用規約の違い
定款と契約書の違い
定款と契約書は、どちらも権利や義務に関係する文書ですが、目的が異なります。
定款は、会社や法人の目的、組織、意思決定などを定める文書です。
契約書は、売買、業務委託、賃貸借、雇用など、特定の当事者間で合意した内容を記録する文書です。
たとえば、A社がB社へシステム開発を依頼する場合、業務内容、報酬、納期、知的財産権、秘密保持などは業務委託契約書で定めます。
A社の事業目的や株主総会の運営方法は、A社の定款で定めます。
契約は、申込みに対して相手方が承諾したときに成立するのが基本です。
法令に特別の定めがある場合を除き、契約の成立に必ずしも書面は必要ありません。
一方、株式会社の設立には定款の作成が必要であり、設立時定款には公証人の認証も必要です。
「書面に署名する」という見た目が似ていても、定款は組織の基本文書、契約書は当事者間の合意を記録する文書と整理できます。
約款と契約書の違い
約款も契約書も、取引条件を定めるために使われます。
大きな違いは、条件を個別に交渉することを前提としているか、多数の相手へ共通して適用することを前提としているかです。
一般的な契約書では、契約の相手、金額、納期、提供内容、責任範囲などを当事者間で調整します。
約款では、事業者があらかじめ共通条件を準備し、多数の契約者に適用します。
ただし、両者が完全に分離されているとは限りません。
申込書や個別契約書で料金や契約期間を決め、その他の共通条件は約款に従うという方法もあります。
この場合、個別契約書と約款の内容が食い違う可能性があります。
どちらを優先するかが明記されていれば、その定めを確認します。
優先関係が明確でないと、契約内容の解釈をめぐって争いになるおそれがあります。
事業者が契約書と約款を併用する場合は、個別契約で変更できる範囲と、約款が適用される範囲を明確にすることが重要です。
約款と利用規約の違い
利用規約は、Webサービス、アプリ、会員サービスなどで多く使われる名称です。
利用できる人の条件、アカウント管理、禁止行為、料金、解約、投稿内容の扱い、知的財産権などが記載されます。
一方、約款は、同じ種類の取引を多数の人と行うために用意された共通条件を表す名称として使われます。
実務上は、利用規約が約款の役割を果たしていることも少なくありません。
法律上の扱いは、文書の名称だけでは決まりません。
「利用規約」と書かれていても、民法が定める定型取引のために準備された条項であれば、定型約款に関する規定が適用される可能性があります。
反対に、特定の相手と個別交渉して作成した利用規約が、必ず定型約款に当たるとは限りません。
名称を決めることよりも、誰とのどのような取引に使用し、どの方法で契約内容へ組み入れるのかを設計することが重要です。
サービスを提供する側は、申込み画面から規約へ簡単に移動できるようにし、同意の対象となる文書を明確に示す必要があります。
変更履歴や適用開始日を残しておくことも、契約時点の条件を確認するうえで役立ちます。
社内規程や規約との違い
社内規程は、会社の業務や従業員の行動を管理するためのルールです。
取締役会規程、経理規程、稟議規程、情報セキュリティ規程、個人情報管理規程などがあります。
定款が会社全体の基本的な仕組みを定めるのに対し、社内規程は日常業務の具体的な手順や権限を定めます。
たとえば、定款に「取締役会を設置する」と定め、取締役会規程で招集方法、議案の提出、議事録の管理などを詳しく決めることがあります。
就業規則も社内のルールですが、労働時間、賃金、休日、退職など、労働条件に関する特別な役割を持つ文書です。
「規約」という言葉には、法律上の意味が一つだけ定められているわけではありません。
会員組織の運営ルールを規約と呼ぶ場合もあれば、サービスの契約条件を利用規約と呼ぶ場合もあります。
そのため、文書の名前だけを見て判断するのではなく、誰に対して、何を定め、どのような手続きで効力を持たせるのかを確認する必要があります。
定款、社内規程、就業規則、契約書、利用規約は、互いに目的が異なります。
複数の文書を作成するときは、同じ事項について矛盾する内容が書かれていないかを確認しましょう。
定款と約款についてよくある疑問と注意点
定款や約款は誰でも見ることができるのか
株式会社の定款は、誰でも自由にインターネットで閲覧できる文書ではありません。
会社法第31条は、株式会社が定款を本店と支店に備え置くことを定めています。
株式会社の株主と債権者は、営業時間内であれば、定款の閲覧や謄本、抄本の交付などを請求できます。
つまり、会社と無関係な人が、興味だけを理由に必ず閲覧できる制度ではありません。
一方、定款に書かれた事項の一部は商業登記にも記録されます。
商号、本店、目的、資本金など、登記事項になっている情報は、登記事項証明書を取得することで確認できます。
ただし、登記事項証明書は定款そのものではないため、定款のすべての内容が記載されているわけではありません。
約款の確認方法は、サービスによって異なります。
事業者のWebサイト、契約書類、店舗、申込画面などで公開されるのが一般的です。
民法上の定型約款については、相手方が契約前または契約後の相当な期間内に内容の開示を求めた場合、事業者は遅滞なく相当な方法で内容を示す必要があります。
定款と約款は一方的に変更できるのか
定款は、経営者が自分の判断だけで自由に変更できる文書ではありません。
株式会社では、株主総会の決議によって変更するのが基本です。
変更内容によっては、種類株主総会の決議や債権者保護の手続きなど、追加の対応が必要になることもあります。
約款も、事業者が「変更する場合があります」と書いておけば、どのような変更でも自由にできるわけではありません。
民法第548条の4では、変更が相手方の一般の利益に適合する場合、または契約の目的に反せず、変更の必要性や内容などに照らして合理的な場合に、個別の合意を得ずに定型約款を変更できると定めています。
さらに、事業者は変更の効力が生じる時期を定め、変更すること、変更後の内容、効力が生じる時期をインターネットなどの適切な方法で周知する必要があります。
相手に大きな不利益を与える変更ほど、必要性や合理性が厳しく問題になります。
料金の大幅な値上げ、解約条件の厳格化、事業者の責任を広く免除する変更などは、変更条項があるという理由だけで有効になるとは限りません。
事業者側は、変更理由、利用者への影響、告知期間、解約の機会などを含めて慎重に検討する必要があります。
法律に反する内容が書かれていた場合はどうなるのか
定款や約款に書かれた内容が、必ず法律より優先されるわけではありません。
定款には、法律の規定に違反しない事項を記載できると会社法に定められています。
会社法が変更を認めていない事項について、定款で異なる内容を定めても、その効力が認められない可能性があります。
約款についても、相手方の権利を制限し、義務を重くする条項のうち、取引の実情や社会通念に照らして相手方の利益を一方的に害するものは、合意しなかったものとみなされます。
消費者と事業者との契約では、消費者契約法にも注意が必要です。
消費者契約法第10条は、法令の一般的なルールと比べて消費者の権利を制限し、または義務を重くする条項のうち、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものを無効としています。
また、事業者の損害賠償責任を不当に免除する条項や、平均的な損害を超える解約違約金を定める条項も、消費者契約法によって全部または一部が無効になる場合があります。
契約書や約款に書かれているからといって、すべて受け入れなければならないわけではありません。
疑問のある条項が見つかったときは、契約の種類、当事者の立場、関連法令を確認することが必要です。
作成・変更・契約前に専門家へ相談したほうがよいケース
簡単な会社設立や一般的なサービスであれば、公的機関が公開する情報や作成支援ツールを参考にできる場合があります。
法務省は、一人株式会社などの設立について、電子定款を利用したオンライン申請の案内を公開しています。
ただし、ひな形の文章をそのままコピーすれば、自社に適した文書が完成するとは限りません。
複数の株主がいる会社、外部から出資を受ける会社、種類株式を発行する会社、将来の事業承継を考えている会社では、定款の内容が株主の権利や経営の安定性に大きく影響します。
新しいWebサービスを始める場合も、利用規約だけでなく、特定商取引法に基づく表示、プライバシーポリシー、返金条件、知的財産権の扱いなどを検討する必要があります。
高額な違約金を定める場合、利用者の投稿内容を事業者が利用する場合、自動更新を採用する場合、未成年者が利用する場合などは、慎重な設計が必要です。
会社の設立登記や変更登記については司法書士、定款や契約条件の法的な検討については弁護士、許認可に関する書類については行政書士などが相談先になります。
税務上の影響がある場合は、税理士への確認も必要です。
専門家へ相談するときは、文書だけを渡すのではなく、事業内容、利用者、料金、契約方法、起こり得るトラブル、将来の計画まで伝えると、実態に合った助言を受けやすくなります。
定款と約款の違いまとめ
定款と約款は、どちらもルールを文章にしたものですが、目的と対象が大きく異なります。
定款は、会社や法人の目的、組織、意思決定などを定める基本文書です。
約款は、多数の利用者との取引に共通して適用する契約条件です。
最も簡単な区別方法は、組織の仕組みを決める文書なのか、商品やサービスの取引条件を決める文書なのかを確認することです。
株式会社の設立時定款は公証人の認証が必要ですが、約款は通常、公証人の認証を受けて作成するものではありません。
一方で、約款は作成して公開すれば、すべての内容が当然に有効になるわけではありません。
定型約款を契約内容に組み入れるための条件、不当な条項に関する制限、変更するときの合理性や周知方法を確認する必要があります。
定款、約款、契約書、利用規約、社内規程は、それぞれ役割が異なります。
名称だけで判断せず、誰に対して、何を定め、どのような手続きで効力を持たせる文書なのかを整理しましょう。
なお、この記事は一般的な制度を分かりやすく説明したものであり、個別の契約や紛争に対する法的な判断を示すものではありません。
実際の作成、変更、契約トラブルについては、具体的な事情を整理したうえで専門家へ相談してください。
