「曰く付き」の語源とは?なぜ怖い意味になったのか由来をわかりやすく解説

「曰く付き」の語源とは?なぜ怖い意味になったのか由来をわかりやすく解説

「曰く付きの品」「曰く付きの物件」と聞くと、何となく怖い過去や不吉な出来事を想像してしまいます。

しかし、なぜ「言う」という意味を持つ「曰」の字が、複雑な事情や好ましくない過去を表すようになったのでしょうか。

「子曰く」との関係や、「日く付き」との表記の違いが気になっている人もいるかもしれません。

この記事では、「曰く付き」の語源を古い言葉の仕組みから解き明かし、怖い印象が生まれた理由、正しい使い方、似た言葉との違いまで分かりやすく紹介します。

意味を知るだけでなく、言葉が少しずつ変化してきた過程にも注目してみましょう。

目次

「曰く付き」とは?意味と読み方を最初に確認

「曰く付き」の読み方は「いわくつき」

「曰く付き」は「いわくつき」と読みます。

「曰」は「日」という漢字によく似ていますが、意味も読み方も異なる別の漢字です。

「曰」には「言う」「のたまう」「いわれ」「わけ」といった意味があります。

そのため、「日く付き」と書くのは誤りです。

文章では「曰く付き」と漢字で書くほか、読みやすさを優先して「いわく付き」と表記することもあります。

「曰」という字になじみがない人でも、「子曰く」という表現を見たことがあるかもしれません。

この場合の「曰く」も、基本的には「言うことには」という意味です。

ただし、「曰く付き」の「曰く」は、単に誰かが何かを言ったという意味ではありません。

その物や人の背後にある、簡単には説明しにくい事情や理由を指しています。

たとえば、「この時計は曰く付きだ」と言われた場合、時計に文字どおり何かが付着しているわけではありません。

普通ではない入手経路がある、過去の持ち主に問題があった、何らかの出来事と関係しているなど、表からは見えない事情があることを表しています。

つまり、「曰く付き」は、見た目だけでは分からない背景をにおわせる言葉なのです。

込み入った事情や好ましくない過去を表す言葉

「曰く付き」には、大きく分けて二つの使い方があります。

一つは、物事に込み入った事情や特別な由来があることです。

もう一つは、人に好ましくない前歴があることです。

「曰く付きの土地」であれば、その土地の過去に簡単には説明できない事情があることを示します。

「曰く付きの美術品」であれば、所有者が次々と変わった、盗難事件に関係していた、入手経路が不明確だったなどの背景が考えられます。

「曰く付きの人物」であれば、過去の行動や人間関係について、周囲が警戒するような事情があるという意味になります。

ただし、「曰く付き」と言われただけでは、事情の中身までは分かりません。

事件に関係している場合もあれば、単に複雑な人間関係があるだけの場合もあります。

この言葉の特徴は、事情を詳しく説明せず、何か普通ではない背景があると伝えられる点です。

その一方で、聞いた人に悪い想像をさせやすい表現でもあります。

「特別な由来がある」というだけなら、良い歴史や価値のある物語が含まれる可能性もあります。

しかし、現在の一般的な用法では、好ましくない事情や警戒すべき過去をにおわせる場合が多くなっています。

そのため、「曰く付きの名品」のように使うと、単に由緒正しい品というより、何か不穏な過去を持つ品という印象を与えます。

良い由来を伝えたい場合は、「由緒ある」「歴史のある」「特別な来歴を持つ」と表現したほうが誤解されにくいでしょう。

心霊現象や事故物件だけに使う言葉ではない

「曰く付き」と聞くと、幽霊が出る家や不吉な人形を思い浮かべる人もいるでしょう。

しかし、この言葉そのものに、幽霊や心霊現象という意味はありません。

中心となる意味は、込み入った事情、隠れた理由、好ましくない前歴です。

そのため、建物や土地だけでなく、人、品物、取引、計画、発言などにも使えます。

たとえば、過去に何度も中止されている計画を「曰く付きの計画」と表現することがあります。

関係者の対立や不透明な経緯がある契約を、「曰く付きの契約」と呼ぶこともできます。

誰かの発言について、表面上の意味とは別の狙いがあると考えられる場合は、「曰く付きの発言」と表現できるでしょう。

夏目漱石の『吾輩は猫である』には、「曰く付きの嘘」という使い方が見られます。

この用例では、心霊現象ではなく、何らかの魂胆を伴った嘘という意味で使われています。

このことからも、「曰く付き」が怪談だけの言葉ではないと分かります。

怖い話でよく使われるのは、言葉が「詳しく語られていない過去」を想像させるからです。

原因がはっきり説明されないほど、人は空白を自分の想像で埋めようとします。

そこに古い屋敷、持ち主不明の品、過去に事故があった場所といった要素が加わると、不気味な印象が生まれやすくなります。

言葉の意味そのものが怖いのではなく、説明されていない事情をにおわせる働きが、怖さにつながっているのです。

「曰く付き」の語源は「言うこと」にある

「曰く」は「言う」を名詞化した言葉

「曰く」のもとになったのは、「言う」という動詞です。

古い日本語には、動詞などに「く」を加えて、「何々すること」という名詞に近い働きを持たせる方法がありました。

この仕組みはク語法と呼ばれています。

「曰く」は「言う」のク語法によって作られ、「言うこと」や「言うことには」という意味を表しました。

ク語法は、現在の日常会話で自由に新しい言葉を作れる文法ではありません。

古い時代に使われた形が、いくつかの決まった言葉として残っています。

代表的な例には、「曰く」のほか、「恐らく」「願わくは」などがあります。

ここで注意したいのは、漢字の「曰」だけから「いわく」という読みが生まれたわけではないことです。

日本語にあった「言うことには」という表現に、漢文を読むときの「曰」の字が当てられています。

漢字の「曰」にも「言う」「いわく」「わけ」という意味があるため、日本語の意味と結びつきやすかったと考えられます。

もともとの「曰く」は、必ずしも悪い内容を示す言葉ではありませんでした。

誰かの言葉を紹介するときの「言うことには」や、言われている内容そのものを表す言葉だったからです。

そこから、表立って語られていない内容や、説明すべき事情を指す使い方が生まれます。

さらに、簡単には口にできない事情という意味が強まり、現在の「隠れた理由」「込み入った事情」につながりました。

語源をたどると、最初から不吉な言葉だったわけではないことが分かります。

「言うこと」という普通の意味が、語られる内容、語るべき事情、隠された事情へと広がっていったのです。

「言うことには」を意味する「子曰く」との関係

「子曰く」は、一般に「しいわく」または「しのたまわく」と読みます。

ここでいう「子」は孔子を指し、全体では「先生である孔子がおっしゃることには」という意味になります。

「曰く付き」の語源を調べると、「子曰くから生まれた言葉なのではないか」と考える人がいます。

しかし、「子曰く」という決まった言葉が変化して「曰く付き」になったわけではありません。

両者に共通しているのは、「曰く」が「言うことには」「言うこと」を意味する点です。

「子曰く」は、発言者である孔子の言葉を紹介する表現です。

一方の「曰く付き」は、何らかの語るべき事情が付いていることを表します。

同じ「曰く」を使っていますが、文の中での役割が異なります。

「古人曰く」「専門家曰く」といった表現では、「曰く」は誰かの発言を紹介しています。

「この品には曰くがある」と言う場合の「曰く」は、表には出ていない事情や理由を指します。

この二つの意味は、まったく無関係ではありません。

誰かが「実はこういう事情がある」と語る内容が、その物の背景や理由として受け取られるようになったからです。

「言うこと」が「言われるべき内容」になり、そこから「事情」や「理由」を指すようになったと考えると分かりやすいでしょう。

なお、「子曰く」は日本語の古典や漢文訓読を通して広く知られた表現です。

そのため、現代人が「曰く」という語を見たときに、「子曰く」を最初に連想することは不自然ではありません。

ただし、語源を説明する際には、「子曰くが起源」ではなく、「同じ『言うことには』という用法を持つ」と理解するのが正確です。

「曰く」と「付き」が組み合わさった本来の意味

「付き」は、名詞の後ろに付いて、そのものが付属していることを表します。

「家具付きの部屋」なら、家具が部屋に付属しています。

「条件付きの許可」なら、条件が許可に付いています。

「解説付きの資料」なら、資料に解説が加えられています。

同じ考え方で「曰く付き」を捉えると、「曰くが付いているもの」となります。

ここでの「曰く」は、語るべき事情や理由です。

したがって、言葉を分けて考えた場合の基本的な意味は、「事情付き」「理由付き」「特別な来歴付き」に近いものです。

ただし、商品の特典のように、事情が物理的に付属しているわけではありません。

その人や物について回る話、過去の経緯、表からは分からない背景が切り離せない状態を表しています。

たとえば、誰が使っても故障するという話が残る機械があれば、その機械には過去の出来事やうわさが付いて回ります。

所有権をめぐって何度も争いが起きた土地であれば、土地そのものを見るだけでは分からない経緯が付随しています。

そうした状態を短い言葉で表せるのが「曰く付き」です。

語源を説明するとき、「うわさが付いている言葉」とだけ理解するのは十分ではありません。

うわさが一切なくても、実際に複雑な経緯や好ましくない前歴があれば、「曰く付き」と表現できるからです。

大切なのは、単なる評判ではなく、対象から切り離しにくい特別な事情があるという点です。

その事情をはっきり説明しないまま伝えられるため、「何があったのだろう」という想像を呼び起こします。

この含みのある響きこそが、「曰く付き」という言葉の面白さでもあり、扱いに注意が必要な理由でもあります。

なぜ「曰く付き」は悪い意味に変わったのか

「言うこと」から「隠された事情」へ意味が広がった

「曰く」は、古くは「言うことには」という形で、発言を紹介する働きを持っていました。

それと並んで、「実は」と打ち明けるべき内容や、表に出ていない事情を表す名詞としても使われるようになりました。

この変化を理解するには、「それには曰くがある」という言い方を考えると分かりやすくなります。

「曰くがある」とは、ただ理由が存在するというだけではありません。

詳しく話せば長くなる事情や、すぐには明かせない背景があることをにおわせます。

つまり、「曰く」は事情の中身を説明する言葉ではなく、説明されていない部分の存在を知らせる言葉になったのです。

「曰く因縁」という表現も、込み入った事情や深いわけを意味します。

少なくとも1824年の文献には、複雑な事情を表す用例が確認されています。

「曰く付き」については、1905年から1906年に発表された夏目漱石の『吾輩は猫である』に用例が確認できます。

ただし、確認できる古い用例が、その言葉の誕生した瞬間とは限りません。

話し言葉ですでに使われていたものが、後から文章に記録された可能性もあるためです。

そのため、「曰く付きは夏目漱石が作った言葉」と断定することはできません。

確実に言えるのは、明治時代後半には、現在につながる形と意味で使われていたということです。

漱石の用例は「魂胆がある嘘」を表しており、当時から単なる由来ではなく、表に出ていない意図をにおわせる言葉として機能していました。

この含みが積み重なり、「特別な事情」よりも「好ましくない事情」を連想させる表現として定着していったと考えられます。

説明しにくい過去が不安を感じさせるようになった

人は、理由がはっきり説明されているものより、何かが隠されているものに不安を感じやすいものです。

「曰く付き」は、事情の存在を知らせながら、その内容をすべて明らかにしません。

「この家には過去の所有者に関する記録があります」と言われれば、確認すべき内容がある程度見えてきます。

一方で、「この家は曰く付きです」とだけ言われると、何が起きたのか分からないまま、普通ではない事情があることだけが伝わります。

この情報の空白が、警戒心や想像を生みます。

しかも、明るい話や誇らしい歴史であれば、わざわざ内容を隠す必要はあまりありません。

「有名な職人が作った」「歴史上の人物が所有していた」と具体的に説明したほうが、その物の価値を伝えやすいからです。

反対に、事件、対立、不正、失敗、破談などの事情は、詳しく話しにくいことがあります。

そのため、「詳しくは言えないが事情がある」という表現には、自然と好ましくない内容が集まりやすくなります。

「曰く付き」が悪い印象を持つようになった背景には、この言葉の使われ方が関係していると考えられます。

語源に「悪」「犯罪」「不吉」といった意味が含まれているわけではありません。

実際の語義も、まずは込み入った特別な事情や由来が付随していることを示し、そこから特によくない前歴を示す用法へ分かれています。

つまり、最初から悪い意味だけを持っていたのではなく、説明しにくい事情を表す働きが、悪い内容と結びつきやすかったのです。

現在では、明らかに良い由来を示す目的で「曰く付き」を使うと、皮肉や不穏な印象を与える可能性があります。

前向きな歴史を伝えたい場面では、別の表現を選ぶほうが安全です。

怪談や事故物件で怖い印象が強まった理由

「曰く付き」という言葉の定義には、霊、怪異、呪いといった意味は含まれていません。

それでも怖い言葉に感じられるのは、古い建物、土地、人形、絵画、宝石など、過去を持つものと相性がよいためです。

こうしたものは、現在の持ち主が知らない時代をすでに経験しています。

その過去について「普通ではない事情がある」とだけ伝えられると、聞き手は事故や死、争いなどを想像しやすくなります。

特に怪談では、すべてを説明しないことが怖さにつながります。

「夜になると音が聞こえる理由は不明だ」「歴代の持ち主に同じ出来事が起きた」といった情報が断片的に示されると、見えない原因があるように感じられます。

「曰く付き」は、そうした断片的な背景を一言で表せる便利な言葉です。

また、「呪われた品」と断定する表現に比べると、事実なのか、うわさなのか、単なる偶然なのかを曖昧にできます。

この曖昧さによって、現実の話にも創作にも使いやすくなっています。

ただし、実際の建物や品物について使う場合は注意が必要です。

「曰く付き」と表現すると、確認されていない事件や心霊現象まで事実であるかのように受け取られる可能性があります。

過去に具体的な出来事があるなら、その内容を正確に説明することが大切です。

単に古い、不人気である、値段が安いという理由だけで、「曰く付き」と決めつけるのは適切ではありません。

この言葉は事実を細かく伝える表現ではなく、事情が存在することを暗示する表現です。

怖さを生む力が強いからこそ、娯楽の文章では効果的ですが、現実の情報を扱う場面では慎重さが求められます。

「曰く付き」の正しい使い方と具体例

物件・品物・場所に使う場合

「曰く付き」は、物件、土地、建物、骨董品、美術品、宝石などに使われることがあります。

共通しているのは、見た目だけでは分からない過去や経緯が付随している点です。

たとえば、「この屋敷は相続をめぐる争いが何度も起きた曰く付きの建物だ」と表現できます。

この文では、建物そのものの性能ではなく、所有者たちの間で起きた出来事が問題になっています。

「その絵は盗難と返還を繰り返した曰く付きの作品だ」と書けば、作品の来歴が普通ではないことを示せます。

「交渉が何度も決裂した曰く付きの土地」という表現では、土地をめぐる過去の経緯が現在にも影響していることが伝わります。

一方で、単に古い物や中古の物を「曰く付き」と呼ぶのは不自然です。

長く使われているだけでは、込み入った事情や好ましくない背景があるとは限りません。

安く売られている商品についても、傷、型落ち、箱の破損など理由が明確なら、「訳あり商品」のほうが自然です。

「訳あり商品」は、使用や消費に支障はないものの、見た目や型式など通常の商品として扱いにくい理由があり、安く売られる商品を指します。

これに対して「曰く付きの商品」と言うと、品質上の小さな問題ではなく、入手経路や所有者の過去など、もっと複雑な事情を想像させます。

「曰く付きの部屋」という表現も、単に設備が古い部屋という意味にはなりません。

過去に起きた出来事、契約上の問題、住人にまつわる話など、説明しにくい背景があることをにおわせます。

正確な情報を伝える必要がある場面では、「曰く付き」とだけ書かず、何が確認されているのかを続けて説明するとよいでしょう。

曖昧さを楽しむ物語と、事実を伝える説明文とでは、適切な使い方が異なります。

人物や経歴に使う場合

人に対する「曰く付き」は、好ましくない前歴や、周囲が警戒するような過去があることを示します。

たとえば、「彼は以前の会社で大きな問題を起こした曰く付きの人物だ」と使えます。

この場合、人物の現在の性格だけでなく、過去の行動が評価に影響しています。

「曰く付きの経歴」という表現なら、経歴の一部に不明確な点や問題視される出来事があることを示せます。

ただし、人に向けて使う場合は、物に使う場合よりも慎重でなければなりません。

「曰く付きの人物」というだけで、犯罪歴がある、信用できない、危険であると受け取られる可能性があるからです。

実際には、複雑な家庭事情や過去の人間関係を抱えているだけかもしれません。

確認できていない情報をもとに人を「曰く付き」と呼べば、根拠のない悪評を広めることになります。

本人に聞こえる場所で使えば、侮辱的な表現として受け取られる可能性もあります。

事実を伝える必要があるなら、「過去の契約をめぐって裁判になった」「前の職場で処分を受けた」など、確認できる内容を具体的に書くべきです。

詳しい事情を明かせない場合でも、「複雑な経歴を持つ」「過去の経緯が注目されている」など、必要以上に悪い印象を与えない表現があります。

小説やドラマでは、「曰く付きの男が町に戻ってきた」のように、人物への興味を引くために使えます。

この書き方なら、何があったのかをすぐには明かさず、物語を先へ読ませる効果が期待できます。

一方で、報道、紹介文、人物評価など、現実の信用に関わる文章では、曖昧なまま使用しないほうが安全です。

「曰く付き」は説明を省ける便利な言葉ですが、人に貼り付けるレッテルにもなり得ることを覚えておきましょう。

会話や文章で使える例文と注意点

「曰く付き」は、対象の背後に普通ではない事情があると伝えたいときに使います。

自然な使い方を、例文で確認してみましょう。

「この古い指輪は、持ち主が何度も変わった曰く付きの品らしい。」

この文では、指輪の来歴に何らかの事情があることを表しています。

「長年放置されていたあの屋敷には、何か曰くがありそうだ。」

この文では、事情があると断定せず、話し手がそう感じていることを示しています。

「何度も責任者が交代した、曰く付きの事業がようやく再開した。」

この文では、事業の過去に混乱や問題があったことをにおわせています。

「その契約は成立までの経緯が複雑で、社内では曰く付きと呼ばれていた。」

この文では、契約に付随する複雑な背景を表しています。

「彼の意味深な笑い方には、どこか曰くありげなところがあった。」

この場合は、「曰く付き」ではなく「曰くありげ」が自然です。

「曰くありげ」は、込み入った事情、特に好ましくない事情がありそうな様子を表します。

まだ事情が本当にあると確認できていない段階では、「曰く付き」と断定するより、「曰くがありそう」「曰くありげ」と表現したほうが正確です。

また、「この料理は珍しい食材を使った曰く付きの一品だ」という使い方は、特別な事情が悪いものではない限り不自然です。

珍しさや工夫を伝えたいなら、「こだわりの一品」「特別な由来を持つ料理」などが合います。

「曰く付き」は、単に変わっている、珍しい、有名であるという意味ではありません。

表からは分からない事情があり、その事情がどこか好ましくないという含みまで考えて使う必要があります。

文章に緊張感や謎を加えられる便利な言葉ですが、使う対象と場面を選ぶ表現です。

「曰く付き」と似た言葉の違い

「訳あり」と「曰く付き」は何が違う?

「訳あり」と「曰く付き」は、どちらも何らかの事情があることを表します。

ただし、言葉から受ける印象と、使いやすい場面が異なります。

「訳あり」は、特別な事情や関係などがあることを広く表せる言葉です。

理由が好ましくない場合もありますが、必ずしも不吉な背景を示すとは限りません。

たとえば、形が不ぞろいな食品、箱に傷がある家電、型式が古くなった商品などは、「訳あり商品」として販売されます。

理由が明確で、使用に大きな問題がない商品にも使える表現です。

一方の「曰く付き」は、事情の中身が複雑で、簡単には説明しにくい場合に向いています。

単なる傷や型落ちより、過去の所有者、入手経路、争い、不正、事件などを想像させやすい言葉です。

「訳ありのリンゴ」と言えば、形が悪い、傷がある、大きさがそろっていないといった理由を想像できます。

「曰く付きのリンゴ」と言われると、普通の商品上の理由ではなく、そのリンゴにまつわる奇妙な出来事があるように聞こえます。

人についても、「訳ありの二人」は、家庭事情や恋愛関係など、簡単には話せない事情を抱えている印象です。

「曰く付きの二人」とすると、過去の問題や周囲が警戒するような経緯まで感じさせます。

柔らかく事情の存在を伝えたいなら「訳あり」が使いやすいでしょう。

謎、不穏さ、警戒すべき過去を強くにおわせたいなら「曰く付き」が合います。

ただし、どちらも事情を曖昧にする言葉なので、正確さが必要な文章では具体的な理由を補うことが大切です。

「札付き」「いわくありげ」「曰く因縁」との違い

「札付き」は、悪い評判が定着していることや、そのような人物を表します。

「札付きの悪党」「札付きの不良」のように、人の評判や素行について使われることが多い言葉です。

「曰く付き」が隠れた事情や過去の経緯に注目するのに対し、「札付き」は周囲からすでに悪い評価を受けている点に注目します。

たとえば、過去に複雑な事件へ関わったものの、世間にはほとんど知られていない人物は「曰く付き」と表現できます。

何度も問題を起こし、悪評が広く定着している人物なら「札付き」のほうが合います。

「いわくありげ」は、事情がありそうに見える様子を表す言葉です。

本当に事情があると確定していなくても、表情、態度、話し方などから何かを感じ取った場合に使えます。

「いわくありげな目つき」「いわくありげに笑う」のように、人の様子を表す使い方が自然です。

これに対して「曰く付き」は、対象に事情が付随していることを表すため、「ありそう」という推測より一歩踏み込んだ表現です。

「曰く因縁」は、込み入った事情や深いわけを意味します。

現在の日常会話では、事情をもったいぶって語るときや、「どのような曰く因縁があるのか」と由来を尋ねるときに見かけます。

「曰く付きの品」は、事情を持つ品そのものを指します。

「その品の曰く因縁」は、その品にまつわる詳しい事情や物語を指します。

似た言葉でも、焦点は異なります。

隠れた事情なら「曰く付き」、定着した悪評なら「札付き」、事情がありそうな様子なら「いわくありげ」、詳しい因縁や経緯なら「曰く因縁」と覚えると使い分けやすくなります。

「曰」と「日」の見分け方と正しい表記

「曰く付き」の正しい漢字は、「日く付き」ではなく「曰く付き」です。

「曰」は「いう」「いわく」「のたまわく」と読み、言葉を発することや、理由、わけを表します。

一方の「日」は、太陽、昼間、一日、月日などに関係する漢字です。

二つの字は、文字の成り立ちも意味も異なります。

活字では、一般に「曰」は横に広く平たい形で、「日」は縦に長い形に見えます。

「曰」の部首名は「ひらび」、「日」の部首名は「ひ」と呼ばれ、漢字を分類するときにも区別されています。

ただし、画面の小さな文字や書体によっては、形の違いがほとんど分からない場合があります。

見た目だけで判断しにくいときは、意味で覚えるのが確実です。

「言うことには」と読めるものは「曰」です。

「太陽」「一日」「日時」に関係するものは「日」です。

日本語入力では、「いわく」と打って変換すると「曰く」を出せます。

「ひ」と入力して変換した「日」に、無理に「く」を続けないようにしましょう。

また、「曰く」の「曰」は常用漢字ではなく、日常的には見慣れない字です。

読者層によっては、「いわく付き」と一部をひらがなにしたほうが読みやすい場合があります。

正式な表記として漢字を使いたいなら「曰く付き」、読みやすさを優先するなら「いわく付き」と書けばよいでしょう。

どちらの場合も読み方は「いわくつき」で、意味は変わりません。

「曰く付き」の語源・由来まとめ

「曰く付き」は、込み入った事情や特別な由来、好ましくない前歴が付随していることを表す言葉です。

語源となる「曰く」は、「言う」を名詞に近い形にした言葉で、もともとは「言うこと」や「言うことには」という意味でした。

そこから、語られる内容、説明すべき事情、表には出ていない理由という意味へ広がりました。

さらに、名詞の後ろで付属を表す「付き」と組み合わさり、「語るべき事情が付いているもの」という意味になったと考えられます。

「子曰く」と「曰く付き」には同じ「曰く」が使われていますが、「子曰く」が直接の語源になったわけではありません。

「子曰く」では発言を紹介し、「曰く付き」では対象に付随する事情を表しています。

また、「曰く付き」そのものに幽霊や呪いという意味はありません。

事情の中身を詳しく説明せず、不穏な過去を想像させる働きがあるため、怪談や奇妙な品物の話と結びつきやすいのです。

「訳あり」は比較的広く柔らかい表現であり、「札付き」は悪い評判が定着した人などに使います。

似た言葉との違いを知れば、文章の雰囲気に合わせて正確に使い分けられるでしょう。

「曰く付き」という言葉の正体は、最初から怖い意味を持っていた言葉ではありません。

ごく普通の「言うこと」という表現が、語られない事情を示す言葉へ変わり、現在の不穏で想像力を刺激する表現になったのです。

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